診断名がもたらす光と影
それでは、診断名を伝えるだけでなぜ人は癒されるのでしょうか。
研究者らは複数のメカニズムを示しています。
第一に、診断名は「苦しみに説明や枠組みを与える」役割を果たします。
原因不明の不調は「怠けている」「弱い」といった自己否定につながりがちですが、診断名がつくことで「自分のせいではなかった」と安心できます。
第二に、診断名によって同じ経験を持つ仲間や支援団体とつながりやすくなります。
これは孤独感を軽減し、社会的な承認を受けやすくする効果があります。
第三に、診断を伝えるという行為そのものが「一種の儀式的な意味」を持たせます。
正式に告知されることで、患者は社会的に「病者の役割」を得て、治療や配慮を正当に受けられる立場に置かれます。
こうした状況はプラセボ効果に似た安心感や期待を生み、症状改善につながることがあります。
実際、このような効果は、既存のレビュー研究や一部の臨床試験でも示されています。
例えば、医師が明確に診断名と前向きな説明を行った場合、患者の満足度や改善度が高かったことが報告されているのです。
一方で、ルンペルシュティルツヒェン効果には負の側面もあります。
診断名がレッテルやスティグマとなり、偏見や差別につながるリスクがあるのです。
特に精神疾患の診断は、就労や人間関係で不利益を生む場合があります。
また、診断を「自分の全て」と受け止めてしまうと、「どうせ自分は病気だからできない」という思い込みに囚われ、回避行動が強まり、かえって悪循環が続く危険もあります。
このように診断名は「魔法の言葉」として希望を与える一方で、扱い方を誤ると長期的な心理的ダメージをもたらすこともあります。
研究者らは、今後この効果をプラセボ効果と同じように科学的に検証する必要があると指摘します。
科学的な解明はまだ始まったばかりですが、診断の持つ「名前の力」を前向きに活かしていきたいものです。