エタノールをぶっかけるとトマトが「甘く」なり「耐暑性」も得ると判明
エタノールをぶっかけるとトマトが「甘く」なり「耐暑性」も得ると判明 / Credit:Canva
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エタノールをぶっかけるとトマトが「甘く」なり「耐暑性」も得ると判明

2025.09.17 21:00:03 Wednesday

猛暑の夏にはトマトが不作になったり味が落ちたりする――そんな悩みに、意外な救いの手が差し伸べられました。

筑波大学と理化学研究所の研究グループは、特定の暑さに強い性質を持ったトマトに、ごく薄いエタノールを吹きかけることで、厳しい暑さの下でもトマトが元気に育ち、果実の糖度(甘さ)さらにはビタミンCの量まで向上することを発見しました。

体なぜエタノールのスプレーでトマトは暑さを克服し、おいしくなったのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年9月12日に『Scientific Reports』にて発表されました。

エタノール噴霧によりトマトの耐暑性と糖度が向上する https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20250912180000.html
Application of 4-CPA or ethanol enhances plant growth and fruit quality of phyA mutant under heat stress https://doi.org/10.1038/s41598-025-17929-8

トマトにエタノールをかけてみよう

トマトにエタノールをかけてみよう
トマトにエタノールをかけてみよう / Credit:Canva

近年、地球温暖化の影響で夏の猛暑が世界各地で深刻化し、農業にも大きな被害をもたらしています。

気温が高すぎると植物は強いストレスを受け、本来うまく育つはずの作物が、実をつけなくなったり、品質が落ちたりしてしまいます。

特にトマトは暑さが苦手な作物として知られ、夏場には元気がなくなって実の付き方が悪くなったり、味や栄養価が落ちてしまうことが問題視されてきました。

この問題を解決しようと、暑さに負けない「耐暑性」のあるトマト品種を作る研究が進められてきましたが、新しい品種を生み出すには膨大な時間とコストがかかるため、なかなか実用化されていません。

そんな中、研究チームはトマトの暑さへの抵抗力に注目し、独自の研究を進めてきました。

トマトは、光を感じ取るセンサーのような役割をもつ「フィトクロム」というタンパク質を持っています。

研究チームは以前、このタンパク質の一種である「フィトクロムA(phyA)」という物質を作れない特殊なトマト(phyA変異体)を調べ、この変異体が普通のトマトより暑さに強いことを発見しました。

通常のトマトは暑い環境に置かれると細胞膜が傷つきやすくなり、細胞の中から水分や栄養分が漏れてしまいます。

さらに細胞内に「MDA(マロンジアルデヒド)」と呼ばれる有害な物質が蓄積して細胞を傷めつけ、トマトの元気を奪ってしまうのです。

ところがphyA変異体のトマトでは、この細胞膜が安定していて、暑くてもダメージが小さいことが分かりました。

また、この変異体では暑さの中で細胞の中に水分を保つためのアミノ酸「プロリン」が増えるなど、暑さに対抗する特殊な防御反応を備えていたのです。

しかし、そんなphyA変異体にも弱点がありました。

暑さに強い代わりに、暑い環境で育つと実がなかなか大きく育たず、種がない小さな実しかつきません。

さらに、植物が暑さから身を守るために重要な役割をもつ「HSP(ヒートショックプロテイン)」や「HSF(熱ショック転写因子)」というタンパク質を作る働きが、普通のトマトほど強くは発揮されていなかったのです。

そこで研究チームは考えました。

「変異体の強みを生かしつつ、なんとか弱点を克服できないか?」

暑さには強いが実が育ちにくいphyA変異体に、別の物質を与えて暑さへの対応力をさらに引き上げようと試みたのです。

チームが注目したのは、植物の成長を調整するホルモン剤の一種「4-CPA」と、誰もがよく知る身近な物質「エタノール(アルコール)」でした。

4-CPAは正式には「4-クロロフェノキシ酢酸」という名前で、植物が本来持つホルモン「オーキシン」とよく似た働きを人工的に再現した薬品です。

オーキシンは植物の成長を促したり、花が実になる過程を助ける重要な物質ですが、4-CPAは特に果実をたくさん付けたり、大きく育てたりする目的で農業現場でよく使われています。

一方のエタノールは、お酒の主成分としてお馴染みですが、実は最近の研究で、植物の成長ホルモンの働きや暑さや乾燥などのストレスに対する植物の反応にも影響を与えることがわかってきた興味深い物質です。

研究チームは、この2つの物質を使ってトマトが猛暑をどのように乗り越えられるか、実験を行いました。

実験は実際の栽培現場に近い環境を想定して設計されました。

phyA変異体のトマトを使い、夏の猛暑を模した2種類の環境にトマトを置きました。

ひとつは37℃という高温が一定に保たれた実験室内、もうひとつは昼に最高約50℃まで上がり夜は30℃程度に下がる真夏の温室環境です。

ここでトマトに、週に1回のペースで「4-CPA(20 ppm濃度)」または「エタノール(20 mM濃度)」を散布しました。

この実験で研究者たちは「トマトがちゃんと実をつけるか?」「実の大きさや品質はどう変化するか?」を詳しく調べました。

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