エタノールをぶっかけるとトマトが「甘く」なり「耐暑性」も得ると判明
エタノールをぶっかけるとトマトが「甘く」なり「耐暑性」も得ると判明 / Credit:Canva
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エタノールをぶっかけるとトマトが「甘く」なり「耐暑性」も得ると判明 (2/3)

2025.09.17 21:00:03 Wednesday

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エタノールをかけるとトマトが甘くなる

エタノールをかけるとトマトが甘くなる
エタノールをかけるとトマトが甘くなる / Credit:Canva

実験の結果は、チームの予想を超える驚くべきものでした。

エタノールや4-CPAを定期的にスプレーされたphyA変異体のトマトは、猛暑環境の中でもしっかりと成長し、元気な姿を保っていたのです。

特に4-CPAを与えられたトマトは、花の数が増えて実がつきやすくなり、果実も大きく育ちました。

エタノールをスプレーしたトマトでも、生育は改善されましたが、花の数や実の大きさの増加は4-CPAほどはっきりとは見られませんでした。

一方で、エタノールと4-CPAの両方に共通して現れた素晴らしい結果もありました。

それは「果実の品質が明らかに向上した」ということです。

果実の品質を調べるため、研究チームはトマトの「糖度(Brix値)」と「ビタミンCの量」を測定しました。

Brix値というのは果実に含まれる糖分の量を表す数値で、この値が高いほど甘くておいしいトマトになります。

ビタミンCは人間の健康にとても重要な栄養素です。

猛暑では普通、果実は甘みや栄養が落ちてしまいますが、実験の結果、4-CPAやエタノールを散布したトマトはどちらも、散布しなかったトマトよりも糖度もビタミンCもはっきりと増加していました。

暑さで味が落ちるという常識を覆す結果が得られたのです。

ただし、果実の見た目に興味深い違いもありました。

4-CPAを散布したトマトでは、果実の色を作る色素のバランスが変化し、赤い色素である「リコピン」が減って、オレンジ色の色素「βカロテン」が増えました。

そのため、真っ赤なトマトというよりオレンジ色に近いトマトに変化してしまったのです。

これに対して、エタノールをスプレーしたトマトはきれいな赤色を維持しました。

こうした違いから、エタノール処理は「果実の見た目を美しく保ちつつ品質を向上させる」という、実用的なメリットも示しました。

さらにチームは、このトマトの体内で具体的にどんなことが起こっていたのかを、詳しく調べました。

植物が暑さで弱る原因のひとつは、暑さによって細胞がダメージを受けてしまうことです。

細胞は膜で覆われていますが、暑さでこの膜が傷つくと、細胞の中から電解質などの大切な物質が漏れ出てしまいます。

電解質が漏れ出る様子は、まるで細胞が「漏電」しているようなイメージです。

また暑さが続くと、細胞膜には「MDA」という有害な物質も溜まってしまいます。

今回の実験で、エタノールや4-CPAをスプレーしたトマトでは、このような細胞膜のダメージを示す電解質やMDAが明らかに少なく抑えられていました。

同時に、細胞内では水分や栄養分を逃がさないように保護する働きを持つ「プロリン」という物質が増えていたのです。

つまり、両方の処理はトマトの細胞膜を守り、猛暑の中でトマトが傷つかないよう「防御力」を高める効果が確認されました。

もうひとつ、植物が暑さに耐えるために重要なポイントが葉の「気孔」です。

気孔というのは葉の表面にある小さな穴のことで、人間の汗のように水蒸気を出して植物を涼しくする役割を持っています。

4-CPAやエタノールをスプレーされたトマトでは、この気孔の数が増え、ひとつひとつの穴も大きくなっていました。

そのため、水蒸気をたくさん出すことができ、まるでトマト自身が汗をかいて体を冷やすような仕組みが働いていたのです。

4-CPAでは、気孔が増える原因として、気孔を作るのを助ける「MUTE」や「FAMA」という遺伝子が活性化されたことが示されました。

エタノールについては気孔が増える仕組みはまだ完全には解明されていませんが、同じように気孔を活発にする作用があったと考えられています。

さらに研究チームが調べたところ、エタノールを散布されたトマトの細胞内では、暑さから身を守る特別なタンパク質(ヒートショックプロテイン=HSP)やその指揮役のHSF(熱ショック転写因子)という物質がたくさん作られていました。

特にエタノール処理では「HSFA1a」や「HSP70」という、暑さに対する抵抗力を強化するタンパク質が増え、細胞の傷つきを防ぐことが示されました。

4-CPAでも似た効果がありましたが、こちらは収穫量を増やす働きも持つため、「攻めと守り」の両方に効果があると分かりました。

エタノールは収穫量を大きく増やす効果はありませんでしたが、植物自身が持つ暑さへの防御スイッチを押して、「品質をしっかりと守る」という重要な役割を果たしていたのです。

このように、4-CPAとエタノールという身近な物質を使って、猛暑環境でもトマトの収穫量や品質を改善する新しい可能性が明らかになりました。

今回の研究成果は、地球温暖化時代の農業の未来にとって、大きな希望の光となるかもしれません。

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