「自分らしさ」ブームと、見落とされがちな危険
「自分らしさ」や「本物らしさ」という言葉が、現代の流行になっています。
スーパーの食品や、SNSのインフルエンサー、企業の商品、会社の文化にまで「本物の」という言葉が使われ、「リアルな自分」「本音」が大切だと強調されています。
こうした「自分らしさ重視」の流れは、実は昔からあります。
古代ギリシャのソクラテスは「汝自身を知れ」と語り、哲学者たちも「自分に正直であれ」と教えてきました。
しかし時代が進むにつれて、宗教や伝統よりも「自分探し」や「自分の気持ちに従う」ことが大切にされるようになりました。
そして現代では「他の人と違う自分」「自分だけの個性やブランド」が重視されるようになりました。
とはいえ、こうした「自分らしさ」を絶対視すると、さまざまな問題が生まれてしまいます。
チャモロ=プレミュジック氏は「自分らしさの追求」の暗い側面をいくつか説明しています。
1.「自分らしさ」が「自分勝手」になりやすい
「自分らしく生きることが一番大事」と思いすぎると、他人への配慮や協力よりも、自分の気持ちや好き嫌いを優先しがちになります。
その結果、みんなが自分勝手にふるまう社会になりやすく、誰もが自分の“個性”や“ブランド”をアピールし合うだけで、助け合いや協力が難しくなります。
2.「本音だから許される」と勘違いしやすい
「私は本音で話す人間だから」「ありのままの自分を隠さない」と言えば、無遠慮な発言や相手を傷つける行動も許されるような雰囲気になります。
「正直なだけ」「思ったことを言っただけ」であっても、相手が嫌な思いをするなら、本当は配慮が必要です。
3.分断や対立の原因にも
「自分の価値観を大切にしよう」「自分の信念を曲げない」という考え方も、全員が強く持ちすぎると、他の人の意見に耳を貸さなくなりがちです。
「自分が正しい」という思い込みが強くなると、意見の違う人と話し合ったり、歩み寄ったりすることが難しくなり、社会全体が対立しやすくなってしまいます。
4.仕事や人間関係がうまくいかないことも
「他人の評価を気にせず自分らしく」と言われても、現実の職場や人間関係では、他人への配慮や信頼されること、空気を読むことがとても大切です。
何でも自由に思ったことを言ったり、自分の気持ちを最優先にしたりするだけでは、周りから信頼を得ることが難しくなる場合があります。
5.「本物でいられる」のは一部の人だけ?
「自分らしくあれ」という自由は、実は強い立場の人だけが安心して使える面もあります。
社会的に弱い立場の人やマイノリティの人が本音を出すと、不利になったり、差別されたりするリスクが高くなりします。
つまり、「本物でいられること」自体が、みんなに平等な権利とは限らないのです。
ここまでで、自分らしくあることの暗い側面を考慮してきました。
では、こうした暗い側面の影響を受けすぎないようにするには、どうすれば良いでしょうか。