群れの中に「トイレ掃除係」がいた?
ハダカデバネズミ(Heterocephalus glaber)は、アフリカの地下に大規模なトンネルを掘って暮らす、ほぼ無毛の小型げっ歯類です。
その社会構造はミツバチやアリのような「社会性」を持ち、女王(繁殖雌)がただ1匹、少数の繁殖雄だけが子孫を残し、他の個体は働き手としてコロニーの維持に尽くします。
こうした「階層性」は前から知られていたものの、「働き手たち」が実際にどのような行動を取り、どんな分業がなされているのかは長年の謎でした。
従来の研究では、活動量の多い「よく働く個体」、あまり動かない「怠け者型」などに大まかに分類されていましたが、細かな役割や分業が本当に存在するのか、定量的な証拠は乏しかったのです。

そこで登場したのが、RFID(無線タグ)を用いた新世代の自動追跡システムです。
研究チームは、5つの人工コロニー(合計102匹)にRFIDマイクロチップを埋め込み、巣箱の各通路や部屋にリーダーを設置することで、1匹1匹が“いつ・どこに・どれくらい滞在していたか”を30日間、24時間切れ目なく記録することに成功。
この巣箱は「巣」「トイレ」「ゴミ捨て場」「その他」の部屋に分かれており、行動データを詳細に分析することで、各個体がどの部屋をどれくらい使っていたか、どのような行動パターンを持つかが明らかになりました。
驚くべきことに、働き手(非繁殖個体)はみな同じように動いているわけではなく、行動の特徴ごとに複数のグループ(クラスタ)に分けられることが判明。
その中には「トイレ部屋によく出入りする個体」や「ゴミ部屋で過ごす時間が長い個体」など、まるでトイレ掃除係やゴミ係といった“役割分担”を連想させる型が実在していたのです。
特に「トイレ部屋に滞在する時間が突出して長い個体群」は、まさしく“掃除係”として機能している可能性が示唆されました。
一方で、活動量が非常に高い「運搬係」的な個体や、ほとんど巣から出ない「育児・休息型」の個体などもおり、まるで昆虫のカースト社会を思わせるほどの多様な役割が実際に存在していたのです。