「働き手」の多様性とコロニー社会の複雑さ
この自動追跡の成果は、「働き手たち」の行動が一人ひとり安定して“役割型”に分かれているだけでなく、コロニー全体の“社会的なネットワーク”が驚くほど緻密で多層的であることも示しました。
例えば、誰と誰が同じタイミングで活動・休息しているか、誰と誰が同じ部屋にいることが多いか、あるいは誰が誰をよく追いかけるか――こうした“社会的つながり”もすべてデータ化。
分析の結果、女王や繁殖雄たちは非常に強くお互いに結びつき、同じ部屋・同じリズムで過ごす傾向があることが判明。
一方、働き手同士では「よく一緒にいるペア」や「ほとんど交流しないペア」があり、行動型によってもその結びつきに違いが現れていました。

また、「巣の引っ越し」などコロニー全体での大きなイベントの際にも、ある個体がリーダーシップをとることが多いことや、体の大きい非繁殖雄が特定の役割型に偏りやすいことなど、個体属性と役割の関係性も浮き彫りとなりました。
注目すべきは、「トイレ掃除係」や「ゴミ係」が臨時のものではなく、個体ごとに1カ月以上安定して同じ役割型を維持していた点です。
これは哺乳類ではきわめて珍しい特徴で、社会性昆虫の「カースト」に近い高度な役割分化が哺乳類でも成立していることを意味します。
さらに「誰が誰をよく追いかけるか」という追従ネットワークからは、女王個体がコロニー内で最も積極的に他個体を追いかける一方、他の個体から追いかけられることは少ないという「階層構造」も明らかになりました。
こうした役割と階層性の組み合わせが、コロニーの効率的な維持や安定した繁殖、集団行動の同期性につながっていると考えられます。