カオナシ深海魚はどんな魚?
カオナシ深海魚は、正式に「ティフロヌス・ナサス(Typhlonus nasus)」という学名で、アシロ科というグループに属します。
その最大の特徴は、外見からは目や鼻、口といった顔のパーツがほとんど認識できないことです。
正面から見ても「顔」がどこにも見当たらず、まるで“カオナシ”のような姿をしています。

この不思議な進化の背景には、彼らが生息する「アビサルゾーン」と呼ばれる海底約4000〜5000メートルの暗黒世界があります。
この深度では太陽光が一切届かず、周囲は完全な闇。
光を感知するための大きな目はほとんど役に立たず、むしろエネルギーの無駄です。
そのため、カオナシ深海魚は進化の過程で目が皮膚の奥深くに小さく隠れるなど、顔の器官そのものが著しく退化しました。
さらに、口は頭の下側に隠れていて、鼻孔が2対あるものの、外からは非常に分かりにくい構造です。
体長は最大約46センチメートルにも達し、体色は淡い色合いで、ヒレは黒ずんでいます。
こうした特徴が組み合わさることで、「顔のない魚」という唯一無二の見た目が生まれました。
この魚は1873年に最初に記録されて以来、深海という環境の特殊さもあり、めったに人間の目に触れることがありませんでした。
2017年にオーストラリア近海で再発見された際には、「新種では?」と研究者を驚かせましたが、文献調査の結果、過去に報告されたTyphlonus nasusであることが確認されました。
このような外見的特徴は、洞窟に棲む「目なし魚」と同様、光のない環境で生きる生物がたどる進化のひとつの解答だといえるでしょう。