批評家ぶってしまう心理の理由
なぜ、人は素直に流行を楽しむのではなく、あえて「自分は興味がない」「あんなもののどこが良いのか」と批判的な立場を取りたがるのでしょうか?
その一因として、私たちの中で働きやすいと考えられるのが「ユニークさの欲求(Need for Uniqueness)」と呼ばれるものです。
これは、アメリカの心理学者C.R.スナイダー(C. R. Snyder)とハワード・フロムキン(Howard L. Fromkin)によって提唱された概念で、「他者と適度に異なっていたい」という根本的な欲求を指します。
彼らの研究によれば、人間は他人と自分が「そっくりだ」と感じるとき、不快感を抱くことがあるのだといいます。
自分と同じ服、同じ髪型、同じ意見の人間が目の前に現れたとき、私たちは「親近感」よりもむしろ、「自分という存在の独自性が脅かされた」という不安を感じるのです。
猫も杓子も同じ作品を見て、似たような感想を言い合う状況だと自分の感性や意見の独自性が保ちにくくなります。
そこでアイデンティティを取り戻すための手っ取り早い方法が「みんなが右を向いているときに、あえて左を向くこと」になるのです。
この心理メカニズムについて、興味深い実証研究があります。
ドイツのマインツ大学の社会心理学者、ローランド・イムホフ(Roland Imhoff)博士らが2017年に発表した研究では、一般的に信じられていない「陰謀論」を支持する人々と、この「ユニークさの欲求」の関連が調査されました。
その結果、ユニークさの欲求が高い人ほど、定説(マジョリティの意見)を否定し、少数の人しか知らない情報を信じる傾向が強いことが示されたのです。
イムホフ博士は、彼らが陰謀論を信じる動機について、純粋に真実を求めているというより、「多くの人が気づいていない“隠された真実”を知っている自分は、特別でユニークな存在だ」という感覚を得るためではないかと分析しています。
もちろん、「流行の否定」と「陰謀論」は異なる現象ですが、ここにはどちらも「多数派の考えから距離を置き、自分独自の視点を示したい」という心理メカニズムが共通して隠れているように見えます。
「この人気は不自然だ」みたいな意見を聞くことがあるのも、「流行の拒否」と「陰謀論」にはどちらも多数派を否定する似た性質があるからかもしれません。
流行への反発が強まると、根拠の薄い理屈でも「自分の立場を支えてくれる情報」に見えてしまうことがあるのでしょう。
そしてもう一つ重要なのが、自律性という心理的欲求です。
私たちは誰しも、「自分の行動は自分で決めたい」「誰かに指図されたくない」という「自律性(Autonomy)」の欲求を持っています。
通常、私たちは好きなコンテンツを自分の意思で選んでいるつもりです。しかし、「社会現象」と呼ばれるほど巨大なブームが起きると、状況は一変します。
テレビをつけても、SNSを開いてもその話題ばかりになると、まるで「それを見ることを社会全体から強制されている」ような、目に見えない圧力を感じることがあるのです。
このように、外部からの圧力によって自由が脅かされたと感じたとき、反発しようとする心の働きを、心理学では「心理的リアクタンス(Psychological Reactance)」と呼びます。
普通なら「そんなに話題なら見てみようかな」となるところを、自律性の欲求が強い人は「自分の自由意志の危機だ」と感じて強い反発を起こすのかもしれません。
この理論に基づけば、へそ曲がりに見える「流行りのものをあえて見ない・買わない」という行動の正体が見えてきます。
それは、流行に流されず、「自分の行動は自分で決めたい」という自律性を回復するための、心の防衛反応なのかもしれません。


























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