傷口は「瘢痕を作る」か「再生に向かう」かの分かれ道にある
私たちがけがをすると、体はまず傷口をすばやくふさごうとします。
このとき活躍するのが線維芽細胞(せんいがさいぼう)です。
線維芽細胞は傷口に集まり、コラーゲンなどを作って損傷部を埋め、瘢痕組織を形成します。
これは生きるためには非常に重要な仕組みです。
出血や感染を防ぎ、傷を閉じることが最優先されるからです。
しかし、手足や指のような複雑な構造を失った場合、この反応には大きな限界があります。
傷はふさがっても、骨や関節、腱、靭帯がもとのように作り直されるわけではないのです。
一方、サンショウウオなどの再生能力を持つ動物では、傷口に「芽体(がたい)」と呼ばれる一時的な細胞の集まりができます。
芽体は、失われた構造を作り直すための“再生工事現場”のようなものです。
そこでは細胞が単に傷を埋めるのではなく、どの場所にどんな組織を作るべきかに従って、再び形を組み立てていきます。
研究チームが注目したのは、この違いでした。
哺乳類の傷口に集まる細胞も、本当に瘢痕を作ることしかできないのでしょうか。
あるいは、適切な指示を与えれば、サンショウウオのように再生へ向かう可能性を持っているのでしょうか。
チームはこの考えを、細胞が「瘢痕を作る方向」と「芽体を作る方向」のどちらにも進み得る状態として説明しています。
そこでチームは、マウスの足指を用いて、通常なら再生しない切断創に再生のスイッチを入れられるかを調べることに。
実験では、生後3日のマウスの後ろ足の指を、第2指節骨の途中で切断しました。
このレベルの損傷では、普通は失われた指の構造は再生しません。
チームは、傷が閉じた4日後に、まず線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を傷口に与えました。
重要なのは、傷を負った直後ではなく、いったん通常の治癒反応が進んで傷が閉じたあとに投与した点です。
つまり体にまず「傷をふさぐ」といういつもの作業を終えさせ、その後で「この先の反応」を別の方向に変えようとしたのです。
するとFGF2は、傷口にある細胞を活性化し、芽体に似た細胞集団を作らせました。
これは、哺乳類では通常このような切断創で起こらない反応です。
実際、研究ではFGF2によって、芽体形成やパターン形成に関わる遺伝子の発現が誘導されることも確認されました。
ただし、FGF2だけでは足指の骨格構造を十分に作り直すことはできませんでした。
いわば、再生のための“材料置き場”はできたものの、そこから何をどう作るかという指示が足りなかったのです。




























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