宇宙定数と量子世界が同じ数式の形を持っていたとする新理論が発表
宇宙定数と量子世界が同じ数式の形を持っていたとする新理論が発表 / Credit:Canva
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宇宙定数と量子世界が同じ数式の形を持っていたとする新理論が発表

2026.07.03 22:30:40 Friday

私たちの宇宙は、生まれた瞬間に、猛烈な勢いでバラバラに引き裂かれていても、おかしくありませんでした。

銀河も、星も、地球も、私たちも——物質が寄り集まって形になる間もなく——理論の上では、そうなっていて当然だったのです。

量子場理論によれば、宇宙のどこであれ、「何もない場所」には、ごく小さなゆらぎがひっきりなしに起きていて、それ自体がエネルギーを持っています。

そして、このエネルギーには空間を内側から押し広げる性質があるため、すべてを合算すると、宇宙を猛烈な勢いで膨張させるはずなのです。

ところが、現実の宇宙は、そうなっていません。

膨張を押し進める力を表す「宇宙定数」という数は、理論の予測よりも桁違いに小さく、宇宙は穏やかに膨らみ、銀河を生み、星を灯し、私たちを育んできました。

なぜ、この数はこんなにもおとなしいのか。

この問いは100年近く、世界中の物理学者を悩ませ続けてきました。

アメリカのブラウン大学(Brown University)の研究チームが示したのは、この問いに対する、まったく意外な角度からの答えでした。

研究者たちは、宇宙とはおよそ縁のなさそうな、量子世界の背後にある数学と、宇宙の時空を記述する理論の数学が、驚くほどよく似た骨格を持っていることを突き止めました。

なぜ宇宙膨張の秘密が小さな量子世界に隠れていたのでしょうか?

研究内容の詳細は『Physical Review Letters』にて発表されました。

Could the mathematical ‘shape’ of the universe solve the cosmological constant problem? https://www.brown.edu/news/2026-04-20/cosmological-constant-problem
Cosmological Constant from Quantum Gravitational 𝜃 Vacua and the Gravitational Hall Effect https://doi.org/10.1103/rzz5-p4f4

宇宙は「生まれた瞬間に吹き飛ぶ」はずだった

宇宙は「生まれた瞬間に吹き飛ぶ」はずだった
宇宙は「生まれた瞬間に吹き飛ぶ」はずだった / Credit:Canva

宇宙定数――名前からして難しそうですが、その本質は意外なほど単純です。

宇宙定数の芯となる概念は「何もない空間そのものが持っている、宇宙を押し広げるエネルギー」と言えるからです(近ごろよく耳にする「ダークエネルギー」とも、深く関わっています)。

この数を最初に持ち出したのは、あのアインシュタインでした。

この宇宙には重力があり、あらゆるものを惹きつけています。

そのため放っておけば、宇宙が自分自身の重力で潰れてしまうとアインシュタインは考えたのです。

そこでアインシュタインは、宇宙が自分自身の重力で潰れてしまわないように、内側から支える「つっかえ棒」あるいは「内圧」として、宇宙定数という概念を自身の方程式に組み込みました。

アインシュタインとしては自らの理論を「今の宇宙が潰れていない」という現状にあわせるため修正と言えるでしょう。

ところが、その後の観測で、宇宙は止まってなどおらず、実際には膨らんでいることがわかってしまいます。

1929年、天文学者エドウィン・ハッブルが、宇宙の膨張を発見したのです。

じっとした宇宙を支えるために入れたはずの”単なるつっかえ棒”は、まるごと不要になってしまいました。

アインシュタインはこれを、のちに”最大の失敗(biggest blunder)”と呼んで悔やんだと伝えられています。

そして宇宙定数は、いったん物理学の片隅に追いやられます。

流れが変わったのは、それから約70年後のことです。

1998年、天文学者たちは驚くべき発見をしました。

宇宙の膨張は、ただ続いているだけでなく、だんだん速くなっている——加速していたのです。

何かが宇宙を、外へ外へと押し広げ続けている。

その”押す力”を書き表すのに、いちど捨てられたはずの宇宙定数が、ふたたびぴったり当てはまりました。

今度は不変の宇宙を支える”単なるつっかえ棒”ではなく、宇宙をぐんぐん押し広げる——いわば、伸びるほど勢いを増す如意棒として、舞い戻ってきたのです。

ですがここからが悪夢の始まりでした。

宇宙定数が追いやられていたあいだに、物理学ではもう一つの強力な理論が育っていました。

ミクロの世界のふるまいを記述する量子場理論です。

この量子場理論で、空っぽに見える空間を計算してみると、そこはまったく空っぽではないことがわかりました。

ごく小さな粒が、生まれては消え、生まれては消えを、絶え間なく繰り返している。

いわば、細かな泡が絶えず立ち続ける”ざわめきの海”のような場所だったのです。

こうした真空のゆらぎは、「真空エネルギー」に寄与すると考えられています。

そして量子理論に従えば「真空エネルギー」には空間を押し広げる力があるとされていました。

量子の世界からも宇宙定数のようなものが導き出されたわけです。

ただ問題はその量にありました。

ざわめきは、一つひとつは微々たるものです。

けれど、空間のあらゆる場所で、あらゆるスケールのさざ波が同時に立っています。

では、このざわめきが持つエネルギーを全部足し合わせると、どうなるのか?

結果は事実上、無限大と呼んでいい大きさにまで達してしまいました。

量子場理論の計算に従えば、宇宙定数はとてつもなく巨大になってしまうわけです。

もしその通りだったら、宇宙は生まれた瞬間に、猛烈な勢いでバラバラに引き裂かれてしまいます。

銀河も、星も、地球も、そして私たちも、存在するひまなどなかったでしょう。

物理学の世界では、理論と観測が数倍ずれただけでも一大事ですが、量子場理論の予測と実際の観測とのズレは、見積もり方によって、約 10⁴⁴倍(44桁)~10¹²⁰倍(120桁)にも及びました。

両者のあいだのあまりに想像を絶するほどの開きから「物理学史上、もっとも大きく外れた予測」とまで言われてきました。

普通、観測結果とここまで大きなズレがあれば、間違っているのは理論のほうになります。

しかし量子論はけっしていい加減な理論ではありません。

それどころか、他のさまざまな場面では、おそろしく正確に現実を言い当ててきました。

私たちの身近なスマートフォンやパソコンも「量子論の正しさ」をベースに設計されていることから、その優等生ぶりがわかるでしょう。

その優等生が、宇宙定数についてだけは、これほど大きく外してしまうのです。

デタラメな理論が外したのなら、まだ話は簡単です。

しかし信頼できる理論が、ここだけ盛大に外す——だからこそ、この謎はいっそう不気味なのです。

では研究者たちは、この100年の難問に、どんな答えを出したのでしょうか。

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