植物エキスに「鎮痛」と「下痢止め」の作用を発見
研究チームは、公園内に広がるセコイア林で採取された40種の植物を分析対象としました。
これらの植物は、ネイティブ・アメリカンが虫刺されや、ただれ、火傷などの局所的な鎮痛剤として使用してきた長い歴史を持っています。
分析の結果、複数の植物種は、脳と他の組織間で電気信号を伝達する「KCNQ2/3カリウムチャネル」を活性化することが分かりました。
KCNQ2/3は、痛みを感じる神経細胞に存在し、活性化により痛みの信号の強さを下げることができます。
40種のうち9種の植物の抽出分子に、KCNQ2/3を有意に増加させる機能が発見されました。
その一方で、KCNQ2/3を活性化する同じ植物の分子は、腸内に存在する「KCNQ1-KCNE3カリウムチャネル」に対して、真逆の作用(不活性化)を示したのです。
しかし、これは悪いことではなく、KCNQ1-KCNE3の不活性化により、胃腸内の働きが改善され、下痢を予防できます。
下痢は甘く見ていい症状ではなく、世界の子どもの死因の9分の1を占めており、エイズ、マラリア、麻疹(はしか)の合計より多いのです。
研究主任のジェフリー・アボット氏は、次のように述べています。
「本研究の成果は、ネイティブ・アメリカンの薬用習慣から学ぶべきことがいかに多いかを示しています。
分子力学的なアプローチを適用することで、彼らが薬草を使用する際の分子的な合理性を明らかにし、そこから新たな薬剤を開発できる可能性が大いにあるのです」
今回の発見に触発されたアボット氏らは、現在、北米原産の植物を対象とした広範なスクリーニングを行っており、さまざまな症状の治療に利用できる新しい分子を探しています。
すでに、いくつかの植物に含まれるクェルセチン、タンニン、没食子酸(ぼっしょくしさん)が、主要な薬効成分であることを特定しています。
特に興味があるのは、新たな非オピオイド系鎮痛剤の可能性です。
2018年のデータによると、慢性痛のためにオピオイドを処方された患者のうち、最大30%が誤用、10%が中毒症状を発症しています。
さらに、薬物過剰摂取によるアメリカの年間死者10万人のうち、大半はオピオイドが原因となっているのです。
これに取って代わる安全な薬用成分が、ネイティブ・アメリカンの重宝した薬草の中に隠されているかもしれません。