たった10分のランニングで気分向上
本研究では、ウォーキング・ランニングマシーンの「トレッドミル」を用い、運動強度を明確に規定した上で、中強度(ややきつめ)のランニングが被験者の脳に与える影響を調べました。
とくに、前頭前野を基盤とした認知機能や気分に与える影響について、脳の局所的な血流変化をとらえる「機能的近⾚外分光分析法(fNIRS)」を用いて、調査しています。
fNIRSとは、脳イメージング法の一種で、血中の酵素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化をとらえることで、神経活動により生じる血流変化を測定する方法です。
被験者には、同大の学生・大学院生26人(女性8人、男性16人)に参加してもらいました。
実験では、まず、被験者を「運動条件」か「対照条件」にランダムに振り分けます。
運動条件では、ややきついと感じるスピード(心拍数140/分)で10分間のランニングをしてもらいました。
対照条件では、何もせず椅子に座って安静にしてもらいます。
両条件とも、実験前後に覚醒度と快適度にかんする8項目の質問に回答してもらい、さらにストループ課題を実施しました。
ストループ課題とは、表示された文字の意味と色の情報が矛盾している場合に、答えを出すまでに時間がかかってしまう現象を利用したテストです。
(たとえば、ある課題では、「赤」という単語が緑色で表示される。このとき、脳は意味と色の2つの情報をうまく制御・処理しなければならない)
一連のテストの間は、fNIRSで前頭前野の血流変化を測定しました。
その結果、10分間の中強度のランニングは、安静時に比べて、覚醒度と快適度を向上させることが判明しました。
ペダリングを用いた先行研究では、覚醒度は向上したものの、快適度に変化が見られなかったことから、ランニングには、ペダリングより快適な気分を誘発しやすい効果があると考えられます。
また、ストループ課題にかかった回答時間では、安静時の前後に比べ、ランニング前後の方が有意に短くなっていました。
さらに、fNIRSを用いた血流変化を見ると、安静時に比べてランニング時の脳活動が有意に増加したのはもちろんのこと、ペダリングを用いた先行研究と比べても、脳活動がより活発になったとのことです。
研究主任の征⽮英昭(そや・ひであき)教授は、次のように述べています。
「今回の実験は、ややきついと感じる強度で行われましたが、これより軽い運動でも効果があると考えられます。
マウス研究では、スローペースのランニングが海馬を活性化させたり、長期的に続けると海馬の一部の神経を新しく生み出す記憶力が向上することがわかっています」
また、本研究は、若年齢成人を対象としていますが、同じ健康効果は、中高齢者でも十分に期待できるとのこと。
その一方で、若年層と中年層では、脳内の機構が異なる可能性があるため、実際の検証が必要となります。
気分が少し落ち込んだと思ったら、10分程度のランニングをすると良いかもしれません。