生物たちの「色」まで復元できる!
研究主任の一人で、オーストラリア博物館研究所(AMRI)の古生物学者マシュー・マッカリー(Matthew McCurry)氏は、次のように話します。
「今回見つかった化石群は、かつてこの地域が温暖湿潤な熱帯雨林であり、ここセントラル・テーブルランズに豊かな生物が生息していたことを証明しています。
これまで、古代の生態系がどのようなものであったかを知るのは困難でしたが、これら化石群は、昆虫のような小さく壊れやすい生物でさえ、保存状態の良い化石に変化したことを示しています」
今回見つかった化石層は「マクグラス・フラット(McGraths Flat)」と命名されており、古生物学の地層としては、ラガーシュテッテ(Lagerstätte)に分類されています。
ラガーシュテッテとは、きわめて保存状態の良い化石を産出する堆積層のことです。
マクグラス・フラットでは、生物の保存状態が非常によく、一部の化石では細胞内の構造まで確認できます。
これらは、一般的に化石が見られないタイプの岩石であるゲータイト(針鉄鉱、しんてっこう)に保存されていました。
分析の結果、化石群は、鉄分を多く含む地下水がビラボン(Billabong:三日月湖、水路にある流れの無い水溜まり)に流れ込み、沈殿した鉄鉱物が、水の中に住んでいた、あるいは水中に落ちた生物を包み込んで生じたと示唆されています。
こうした化石化のプロセスが、これほどまで保存状態が良い理由でしょう。
化石中には、組織に色素を供給するメラノソームという細胞内構造が残っているものも見られました。
メラノソーム自体は無色素ですが、その構造を現代のメラノソームと比較することで、組織がどのような色合いであったかを解明することができます。
つまり、当時の生物がどのような体色だったかを突き止められるのです。
さらに、「これらの化石は種間の相互作用の証拠も保存している」とキャンベラ大学(University of Canberra・豪)の微生物学者マイケル・フレーゼ(Michael Frese)氏は指摘します。
「たとえば、魚の胃の内容物が保存されており、何を食べていたのかが分かります。昆虫の体にも花粉が保存されており、どの種がどの植物に受粉していたかも調べられるのです」
加えて、今回の化石群は、オーストラリアの未来を暗示するヒントを隠しています。
花粉の分析によると、当時のマクグラス・フラットの熱帯雨林は、乾燥気候の地域に侵食されつつありました。
しかし、それは予期していなかったことではありません。
地球の気温は中新世に上昇し、この頃にオーストラリアの一部地域が乾燥地帯に変化し始めたことが分かっているからです。
温暖化が進む今、マクグラス・フラットで見つかった過去の生態系は、現在のオーストラリアの熱帯雨林が今後どのように変化していくかを示してくれるかもしれません。