睡眠中でも脳の一部は起きて「知らない人の声」に強く反応すると判明
目覚まし時計の存在が示すように、睡眠中であっても脳は外部環境に反応することが古くから知られていました。
目覚まし時計の大きな音は聴覚の神経に大きな負荷を与え、睡眠の維持を困難にさせます。
しかし目覚まし時計に代表される「力技」は睡眠状態の破壊を伴うため、睡眠中の脳の活動を観察する手段として理想的とは言えません。
そこで今回、ザルツブルク大学の研究者たちは、被験者たちの睡眠状態を維持したまま「親しい人の声」と「知らない人の声」を聴かせる実験を行いました。
2種類の声に対して睡眠中の脳がみせる反応を比べることで、意識の外で行われる脳の活動を調べられる可能性があったからです。
実験を行った結果、脳は夢さえみない深い睡眠(ノンレム睡眠)にあっても「知らない人の声」により強く反応していることが判明しました。
「知らない人の声」を聴いた脳は、特定の種類の脳波(K複合体)の活動が著しく高くなり、続いて感覚処理にかかわる領域に大規模な活動変化が起こりました。
(※K複合体はゆっくりと孤立した脳波であり外部の異変を脳が感知したときに発せられる脳波です)
一方「親しい人の声」も同様の脳波(K複合体)の増加が僅かにみられましたが、感覚処理にかかわる領域に変化はみられませんでした。
この結果は、睡眠中であっても脳は声の「聞きわけ」を行っており「知らない人の声」に対して自動的に警戒モードに入っていることを示します。
睡眠によって私たちの意識は失われますが、脳の一部は聴覚を通じて外部環境を監視し、私たちの記憶を勝手に照合して脅威度を自動判定していたのです。
しかしより興味深い発見は「知らない人の声」を持続的に聞かせ続けた時に起こりました。
研究者たちが「知らない人の声」を持続的に聞かせていると、被験者たちの脳活動が次第に鈍くなり、最終的には「親しい人の声」と同程度の反応しかみせなくなったのです。
この結果は、睡眠中の脳が「知らない人の声」に脅威度がないことを学習し、勝手に聞き慣れを起こしていることを示します。
睡眠中の脳の警戒システムは単に記憶と音声を照合するだけの単純な警報機ではなく、睡眠中に集めた情報を勝手に学習し、脅威度が無い場合は警戒モードを解除していたのです。
どうやら私たちの脳は意識がない睡眠中であっても、勝手に(自動的に)判断と学習が行えるようです。
テレビや動画を流しっぱなしにして寝ると疲れがとれないのは、知らない人の声が延々と脳に浴びせられるこで脳が学習疲れを起こしているからかもしれません。
ならば、怪しい広告にあるように「睡眠学習」で外国語が話せるようにもなるのでしょうか?
結論から言えば、そう簡単にはいかないようです。