神経細胞の数が多いほど、脳は発達している
直観的には、「脳が大きいほど知能も高くなるのだろう」と思われます。
確かにサイズも大事ですが、もっとも重要なのは脳内の神経細胞の数です。
神経細胞の数が多いほど、脳もより発達していると言えます。
たとえば、脳サイズだけで比較すると、マッコウクジラやアフリカゾウ、バンドウイルカの方が、ヒトよりも大きいです。
しかし、神経細胞の数だと、ヒト脳が一番多くなります。
ただ、ここで注意したいのは、神経細胞の数が増えるほど、あるひとつの脳処理にかかる時間も長くなることです。
なぜなら、脳のインプットからアウトプットまでの時間は、その処理に参加する神経細胞の分だけ足し算式で長くなるからです。
となると、ヒト脳の処理スピードは、他のあらゆる動物よりも遅くなるのではないか?
これを確かめるべく、研究チームは霊長類を対象に実験を行いました。
時間の遅延=処理プロセスの複雑化
実験では、ヒト、コモンマーモセット、アカゲザル、チンパンジーという脳サイズの違う4種の霊長類で、脳処理スピードを比較しました。
具体的には、音によって大脳の聴覚野から誘発される「N1」という脳反応が、音の鳴り始めから何ミリ秒後に生じるかを脳波から計測します。
その結果、コモンマーモセットで40ミリ秒、アカゲザルで50ミリ秒、チンパンジーで60ミリ秒だったのに対し、ヒトでは100ミリ秒ともっとも遅延していたのです。
ただ、耳で受け取られた音が大脳の聴覚野に達するまでの時間は、ヒトからコモンマーモセットでほぼ変わりませんでした。
ここから、反応時間「N1」の差は、聴覚野の中での処理時間の差を意味することになります。
つまりヒト脳は、音の処理にかかわる神経細胞の数が増えたことで、反応も遅くなっていたのです。
ちなみにN1は、無音から音が鳴る・鳴っていた音が消える・音の高さが急に変わるなど、音の「変化」によって誘発される脳反応を指します。
こうした変化を検出するには、変化の前と後で、音を比較できなければなりません。
要するに、この処理には、時間軸上の1点ではなく、ある程度の「時間の幅」を必要とします。
脳応答が遅い=時間の幅が長いことであり、さらにそれは時間をかけてじっくり音を分析できることを意味します。
確かに、脳処理に時間がかかるのは、明らかにデメリットです。
しかし、外界の情報を複雑に分析できる能力にそれ以上のメリットがあるからこそ、ヒト脳は神経細胞の数を増やし、高度に発達したのかもしれません。
つまり人類は、他の霊長類たちより反応動作が遅くなったとしても、じっくり考える方を優先したと考えられるのです。
本研究の成果は、聴覚に焦点を当てたものですが、反応時間の遅延は他の感覚機能にも起こっている可能性があります。
これを解明することが、今後の課題となります。