1500年前の陶磁器は「トイレ用」だった
今回発見された陶磁器は、イタリア・シチリア島の「ローマ帝国時代に浴場だった場所」から発見されました。
高さ32cm、幅34cmのサイズであり、口の広い円錐型の容器でした。
1500年前のものですが、現代の「植木鉢」にしか見えませんね。
実は、この種の陶磁器はローマ帝国の遺物としては珍しいものではありません。
研究チームも「これは広く知られたものであり、しばしば貯蔵壺などと呼ばれてきました」と述べています。
また、公衆便所やその近辺で多く発見されていることから、「トイレとして使用されたのかもしれない」と考えられてきました。
しかし、断定できるほどの証拠は見つかっていませんでした。
ところが今回の陶磁器からは、トイレとして利用された証拠である「腸内寄生虫の卵」が発見されました。
陶磁器の底には、尿や糞便に由来する堆積物がこびりついており、その中には鞭虫(べんちゅう)の卵が含まれていたのです。
鞭虫とは、世界中で広く見られる腸内寄生虫であり、その卵は糞便と一緒に排泄されます。
現在でも10億人ほどが感染しており、主に発展途上国で見られるとのこと。
ローマ帝国時代の衛生管理が現代よりも低かったことを考えると、多くの人が鞭虫に感染していたと考えられます。
当時、鞭虫に感染していた誰かが陶磁器をトイレとして使い、現代まで「運よく」保存されたのでしょう。
ちなみに陶磁器が発見された浴場には専用のトイレがありませんでした。
そのため研究チームは「浴場から上がって遠くのトイレまで歩いていくのではなく、その場で陶磁器を使ったのではないか」と推測しています。
今回判明した情報は、発掘された陶磁器の用途を知る上でおおいに役立つでしょう。
たとえ「植木鉢」に見えたとしても、寄生虫の有無で「トイレ用」かどうかがすぐに分かるのです。