隠されていたフレーズを解読
調査されたのは、フェルセン家のアーカイブから購入し、現在はフランス国立公文書館(French National Archives)に保管されている15通のフランス語の手紙です。
本研究で解読されたのは、そのうちの8通の手紙で、文中の一部が黒塗りされて読めない状態になっていました。
ちなみに、2人が文通をしていた時期は、マリー・アントワネットが、夫のルイ16世とのパリ脱出に失敗し、テュイルリー宮殿で幽閉生活を送っていた頃のことです。
研究チームは、黒塗りの背後に隠された文字を明らかにするため、「蛍光X線分析法(XRF)」という手法を用いました。
これは、対象物にX線を照射して発生した蛍光X線を検出し、それを分光することで、元素や組成分析を行うものです。
たとえば、銅(Cu)のインクで「Love」という文字を書き、そのうえを鉄(Fe)のインクで塗りつぶすとします。
これを鉄に特有の波長でスキャンすると、塗りつぶしがそのまま認識されますが、銅でスキャンすると「Love」が浮かび上がるのです。
もちろん、これは極端に単純化された例であり、手紙や塗りつぶしに使われたインクは、さまざまな元素が組み合わさってできています。
今回は、インク中の銅と鉄、亜鉛(Zn)と鉄の比率の違いを調べました。
その結果、フランス語で「愛(amour)」「親愛なる友(ma tendre amie)」という短いものや、「3人の幸せのために(pour le bonheur de tous trois)」「あなたなしでは(non pas sans vous)」といったフレーズが解読されました。
ここから2人の親密さが伺われますが、研究主任のアン・ミシュラン氏は「恋仲にあったことは断定できない」と指摘します。
「手紙の内容は関係性の一面に過ぎず、2人が文章で表した感情は、周囲の危機的状況によって強められたものかもしれない」と続けました。
では、マリー・アントワネットの手紙を検閲して塗りつぶしたのは誰だったのでしょうか。
研究チームは次に、黒塗りした人物の特定を試みました。