がん細胞だけを殺す改造ウイルスが開発された
地球上には人間に感染する数多くのウイルスが存在します。
ウイルスが感染した細胞は生命活動を乗っ取られてウイルス生産工場になることを強いられ、最終的に破裂して何千もの新たなウイルスを放出します。
そして放出されたウイルスは体内の別の細胞に感染するだけでなく環境にも放出され、感染拡大を引き起こします。
私たち生命体にとって細胞を破壊するウイルスの存在は、ごく一部の例外を除いて、害悪そのものと言えるでしょう。
しかし強力な敵は使い方によっては強力な味方にもなり得ます。
例えば過去に行われた研究ではエイズウイルスを改良し、人間の赤ちゃんの命を救うことに成功しています。
そこでImugene Limited社の研究者たちは、哺乳類に対して天然痘のような症状を引き起こす「オルソポックスウイルス」の遺伝子を組み変えて、がん細胞だけに感染する「CF33‐hNIS(VAXINIA)」を開発しました。
天然痘と言われると、現在世間を騒がせているニュースが思い浮かぶ人も多いかもしれませんが、噂の「サル痘」もオルソボックスウイルス属に分類されます。
そのため、このウイルスはサル痘などを引き起こすオルソポックスウイルスを元に人工的に作られたキメラウイルスということになるでしょう。
この研究は現在マウス実験で有望な結果が示されています。
がんになったマウスを用いた実験では、CF33‐hNISの投与によってがん細胞が殺害されている様子が確認されたのです。
しかしより重要なのは、殺されたがん細胞がまき散らす断片です。
破裂して死んだがん細胞が増えてくると、人間の免疫システムはがん細胞の断片を「異物」として認識するようになり、それら異物の元となる「がん細胞そのもの」に対する攻撃もはじまっていました。
さらにがん細胞の断片の情報が免疫細胞に記憶され、がんが再発した場合にも速やかに免疫システムによる排除が行える可能性が示されました。
加えて、免疫療法と併用で免疫の攻撃力を増加させるこで、抗腫瘍効果がより高まることが判明します。
この結果は、CF33‐hNISは単にがん細胞を殺すだけでなく、がん細胞の「死体」を使って免疫システムを訓練するリアルタイムのワクチン生成能力があることを示します。
(※CF33‐hNISは腫瘍を溶かすようにして小さくするため「腫瘍溶解性ウイルス」とも呼ばれています)
問題は、同様の効果が人間にも当てはまるかです。