マウスのY染色体を喪失させると心臓病のリスクが高まる
研究チームは、ゲノム編集ツールを使って、白血球にY染色体をもたないマウスを作りました。
単にY染色体を喪失させるだけでなく、高齢のヒトを模倣した血中細胞のモザイク状態を作り出しています。
その結果、Y染色体喪失マウスは、通常のマウスに比べて短命で、心臓の組織が硬くなりやすく、心不全につながる心筋繊維化(心臓の結合組織が過剰に増殖する現象)も生じていました。
つまりマウスでは、Y染色体喪失によって心臓病のリスクが高まると分かったのです。
次に研究チームは、この発見をヒトのデータと比較するため、イギリスのバイオバンクデータを分析しました。
これには、高齢者約50万人の遺伝情報と健康情報を数十年にわたって収集したデータが収められています。
その結果、白血球のY染色体喪失が検出された男性は、平均11年間の調査期間中に心臓病で死亡するリスクが高いと判明しました。
Y染色体喪失が一定の割合以上だと、心不全を発症する確率が1.8倍になるようです。
特に血液細胞の40%以上のY染色体が失われると、そうでない人に比べて心不全や高血圧性心疾患によって死亡する確率が3.5倍に上昇していました。
そのため研究チームは、「この観察は、マウスモデルで得られた結果と一致しており、Y染色体喪失のモザイク化が、ヒトにおいても直接的な影響を及ぼすことを示唆している」と結論付けました。
そして男性にのみ起こるY染色体喪失による健康悪化が、女性より男性の寿命が短い理由のかなりの部分を占めていると述べました。
つまりY染色体喪失の影響を抑える薬を開発できれば、男性の寿命を女性の寿命に近づけられる可能性があるのです。
早速研究者たちは、Y染色体喪失を起こしたオスマウスたちを使った、治療薬の探索を行いました。