新しい治療法の発見とY染色体の理解につながる
治療薬の鍵になるのは、Y染色体喪失がもたらす影響を打ち消す方法です。
そこで研究者たちは、Y染色体喪失によって、マウスの細胞に何が起こるかを詳しく調べてみました。
するとY染色体を失ったマウスたちの免疫細胞(心臓マクロファージ)において、心臓の線維化を促進する異常な信号の漏出が起きていることが判明します。
つまりY染色体を失ったマクロファージが異常信号を撒き散らすことで、心筋の線維化を引き起こしている可能性があったのです。
そこでチームは追加の実験にて、Y染色体を喪失させたマウスに、異常化したシグナル伝達を抑制する薬を投与。
その結果、心筋繊維化は部分的に逆転しました。
この発見は、Y染色体喪失に起因したさまざまな死亡率を低減させ男性の平均寿命を女性に近づけることにつながる可能性があります。
例えば2014年の研究では、喫煙する男性は、非喫煙者に比べて血液細胞のY染色体喪失の割合が3倍以上だと報告されています。
喫煙者男性の死亡率が高まる要因の1つには、「Y染色体喪失 → 免疫細胞の異変」というプロセスがあるからなのかもしれません。
つまり実験で用いた薬は、喫煙者男性の死亡率を低減させる可能性も秘めているわけですね。
新薬の開発にも期待できるでしょう。
また今回の研究により、男性だけがもつY染色体の役割に光が当たりました。
Y染色体をもっている男性は、それを失うことで、さまざまな病気やトラブルを抱えます。
では、もともとY染色体をもっていない女性はどうなのでしょうか?
今後も、Y染色体の役割を解明するための研究は続けられるでしょう。