なぜ「内耳」を調べなければならないのか?
内耳とは、耳のもっとも奥にある器官で、聴覚を機能させるための蝸牛と、平衡感覚を司る三半規管を含んでいます。
三半規管は、三次元の空間に広がっており、その中を「リンパ液」という液体が流れています。
頭や体を動かしたときにリンパ液の流れが変わることで、前後・左右・上下といった体のバランス情報が得られるのです。
このリンパ液の粘性、いわば”流れやすさ”は、三半規管が頭の動きや回転を効率的に検出し、平衡感覚を維持するために欠かせない指標となっています。
そして、リンパ液は他の液体とどうように温度によって”流れやすさ”が変化します。
ハチミツが、冷たい場所では固くなり、温かい場所ではサラサラになるのをイメージするとわかりやすいかもしれません。
そのため、生物のもつ内耳の大きさは、その生物の体温によって異なってきます。
これまでの研究によると、冷血動物の場合、「平均体温が低い=リンパ液がドロドロ」なので、リンパ液が詰まらないよう、三半規管は大きい傾向があるとわかっています。
反対に、温血動物の場合、「平均体温が高い=リンパ液がサラサラ」なので、そもそもリンパ液が詰まりにくく、三半規管は小さくて済むのです。
こうした理由で、生物の内耳のサイズから、その生物がどんな体温をしているか推測することができるのです。
以上の知見をもとに、研究チームは、世界中から集めた哺乳類の祖先の「内耳」を調べ、三半規管のサイズ変化から、内温性の発生時期を特定することにしました。