雨粒がフタに当たるとバネが起動し、アリを弾き落とす!
今回、研究対象としたのは、ウツボカズラ属の一種「ネペンテス・グラシリス(Nepenthes gracilis)」です。
N. グラシリスは、東南アジア・ボルネオ島の蒸し暑いジャングルに自生しており、熾烈な生存競争を生き抜くために、自らを進化させてきました。
研究チームが新たに見つけた「バネ仕掛け」もその一つです。
N. グラシリスのフタ状の葉は、雨の日に降ってきた滴が当たると、下方向へのスプリングボードになって、雨宿りしているアリをカップの底に突き落とします。
これまで、このバネ仕掛けは「フタそのものか、あるいはフタとカップのつなぎ目の狭い部分にあるだろう」と考えられてきました。
ところが、チームの調査の結果、N. グラシリスのバネは、フタの下側からカップ型の葉っぱの後壁に沿って、縦長に存在していたのです(下図の右側を参照)。
素人目には、それがなんなんだと思ってしまう発見ですが、研究チームによると、バネがカップ背側の縦方向に位置することで、2つの効果を得られるのだといいます。
第一に、バネを一点集中型ではなく、方向依存型にしたことで、フタは下方向に勢いよく動きやすい一方、上方向には動きにくくなっていました(上図の中央を参照)。
これにより雨粒が落ちると、フタは一気に下方へ加速され、戻るとき勢いが制動されるため、葉の裏側にいるアリを消化液の入ったカップの底に弾き落とすことができます。
もしここで、フタが上方向にも勢いよく弾かれるなら、アリにとっては、N. グラシリスからの”脱出装置”になりかねません。
第二に、バネがフタの下側からカップの背側を伝って支柱のように伸びているため、フタが雨粒を受けても、左右にねじれたり、ブレたりすることがないのです。
それによって、雨粒の衝撃エネルギーを下方向へ最大化して伝達できます。
研究主任のアン・クリスティン・レンズ(Anne-Kristin Lenz)氏は、本研究の成果を受けて、次のように述べています。
「N. グラシリスのバネ仕掛けのトラップは、軽量ですがとても頑丈です。
これらの植物から私たちは、スプリング構造を機械的に最適化する方法を学ぶことができます。
そうすれば、機能的なバネの設計において、最適な材料の選択や動作に必要な力を軽量化することが可能になるでしょう」
その一つとして、レンズ氏は、落下してくる雨や雹(ひょう)から効率的にエネルギーを生み出すニュータイプの装置を考案しています。
私たち人類は、植物や動物から積極的に学ぶことで、より有用かつ環境にもやさしい機械を作り出していけるのです。