イチゴの粒々は種ではなく果実!では赤い部分は?
まずは、一般的な果樹の花のつくりを見ておきましょう。
花には「おしべ」と「めしべ」があり、おしべの上部には花粉を生産する「葯(やく)」という器官が、めしべの上部には花粉をくっつける「柱頭(ちゅうとう)」という器官が付いています。
この柱頭に花粉が付着して受精すると、めしべの下部の付け根にある「子房(しぼう)」が発達し、デンプンや糖分がたまって膨らみ始めます。
こうしてできるのが「果実」です。
さらに子房の中には「胚珠(はいしゅ)」があり、これが受精後に成長して「種子」となります。
このように、花粉の受精後に子房が発達・成熟し、その中に種子を含む果実を「真果(しんか)」と呼びます。
真果において重要なのは「子房のみ」が成長して果実を形成する点です。
代表的な真果には、ウメやモモ、ブドウ、カキ、ミカンなどが挙げられます。
つまり通常の果物の果実に関しては、子房に注目して見てもらえばいいでしょう。
ところが、イチゴでは成長の仕方がまったく異なります。
その理由はイチゴの花を見てみるとわかります。
通常の花ではめしべは1つで、おしべがたくさんありますが、イチゴの花には中心部に100本以上の小さなめしべが密集しており、その周りを少し大きなおしべが囲んでいるのです。
当然、たくさんある個々のめしべの付け根にはいずれ果実に成長する子房があり、子房の中には胚珠が一つずつ入っています。
この無数にあるめしべを支えるため、土台の部分に当たる「花托(かたく)」は普通より大きくなっています。
通常の植物では、めしべが受粉し、花粉管を下って子房の中で受精に成功すると、子房が膨らみ果実となりますが、イチゴの場合は白い花びらが散って、土台である花托が大きく膨らみ始めます。
そしてこの膨らんだ花托は、無数にあるイチゴの子房とくっつき、私たちがよく知るツブツブの付いたイチゴの形に成長していきます。
この花托が成熟すると、イチゴの真っ赤で美味しい果肉部分となります。
つまり、この赤い部分の正体は、子房が成長した果実ではなく、大きく膨らんだ花托だったのです。
このように、子房以外の器官(花托)が膨らんで果実のように見えるものを、子房が発達して果実となる「真果」に対して、「偽果(ぎか)」といいます。
偽果には他に、イチジクやリンゴ、ナシが含まれます。
一方で、一つ一つの小さな子房もちゃんと成長して、中にある胚珠も種子となります。
そのため厳密にいうと、イチゴ表面に広がるツブツブの部分こそが、イチゴの本当の果実なのです。
よってイチゴとは「赤く膨らんだ花托の表面にたくさんの果実がくっついている状態」と考えるのが正しいのです。
このようなイチゴの果実は厚い果肉がなく、薄い皮の中に種子が包まれているだけなので、植物学的には「痩果(そうか)」と呼ばれます。
痩果とは「果肉がなく、1個の種を持つ果実」を意味します。
赤く膨らんだ花托は、ツブツブの痩果を保護するクッションの役割があり、痩果がたくさんある植物ほど花托が大きく成長することが分かっています。
研究者によれば、痩果の中の種子が「オーキシン」という化学物質を放出しており、これが花托を肥大させる作用を持つという。
果実はそもそも、動物たちにそれを食べてもらって、その中の種子を遠くに散布してもらうことを目的としています。
そこで植物たちは、自分たちの果肉を食べてもらうために、色や味、匂い、大きさなどを様々に工夫しなければなりません。
イチゴも小さくて見えない種子を食べてもらうために、赤く大きな花托をつけるのでこれを果実と私達が認識することが間違いとはいえないでしょう。
イチゴが愛らしく美味しい植物であることに変わりありませんが、こんなこと初めて知ったという人は、今年のクリスマスケーキに乗せられたイチゴを見るとき、ちょっと気分が変わるかもしれません。