熱波に「名前」を与えて、人々の危機意識を高める
スペイン南部アンダルシア州のセビリアは今年、7月24日から27日にかけて、気温が摂氏44.5度まで上昇した熱波に襲われました。
熱波は特に、屋外での肉体労働者や暑さに弱い高齢者にとって非常に危険な気象現象です。
近年の温暖化の影響で、熱波の被害は年々増加しており、世界保健機関(WHO)による2018年の調査では、2000年から2016年の間に、熱波にさらされる人の数が年間で約1億2500万人増加したことがわかっています。
にもかかわらず、これまで熱波に対して、特定の名前が付けられたことはありませんでした。
というのも、ハリケーンほど頻繁に発生する現象ではなく、熱波に関する国ごとの明確な定義もなかったからです。
世界気象機関(WMO)によると、おおよその定義は、日中の最高気温が、平均最高気温を5°C以上うわ回る日が少なくとも3〜5日以上連続した場合を指すという。
このレベルの酷暑は、エアコンのない屋外では、本当に命にかかわる危険性があります。
そして今年、スペインやポルトガルを含む西ヨーロッパで記録的な熱波が続いたことから、スペインの気象対策プロジェクト「proMETEO Sevilla Project」が、世界で初めて熱波に名前を付けることを決定しました。
本プロジェクトには、セビリア市議会、スペイン気象庁、セビリア大学などが協力しています。
ネーミングの対象となったのは、2022年7月24日〜27日まで続いたセビリアでの熱波で、「ゾーイ(Zoe)」と命名されました。
名前を付ける基準は、熱波の前30日間の気温や湿度を踏まえた上で、熱波を3つのランクに分け、その中で最も深刻度の高い熱波に、スペイン語の人命を付けます。
また、命名のルールとしては、名前の頭文字をアルファベットの最後から順番に取っていき(Z、Y、X…)、男女の名前を交互に繰り返すようにするとのことです。
今回が「ゾーイ(Zoe・女性)」だったので、今後は「ヤゴ(Yago・男性)」「ゼニア(Xenia・女性)」「ウェンセスラオ(Wenceslao・男性)」と続くといいます。
命名の目的について、プロジェクトチームは「熱波に対する市民の危機意識を高め、個人や会社、政府などに、熱波のリスクを深刻に受け取ってもらうため」と話しました。
加えて、熱波のランク(1が最も深刻度が低く、3が最も高い)に応じて、市や政府が具体的な安全対策を取れるようにしたいとも話します。
たとえば、市のプールやウォーターパークを開放したり、被害リスクが高い高齢者や屋外作業員の元へ地域保健員を派遣したり、住民が酷暑から身を守るための物資を届けることなどが提案されています。
熱波はすでに、ヨーロッパだけでなく、アメリカや中国でも増加の一途をたどっています。
アメリカでは今年、約800万人が摂氏51.6度以上の熱指数(Heat Index=体感温度)に見舞われましたが、2053年にはその数が1億700万人を突破すると予測されています。
熱波に名前を付ける試みは、今度、世界中で一般的となるかもしれません。