地球の海は何十億年もの間、実は緑色だった
地球の海は何十億年もの間、実は緑色だった / Credit:clip studio . 川勝康弘
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地球の海は何十億年もの間、実は緑色だった

2025.02.21 22:00:31 Friday

私たちが当たり前のように思い描く「青い海」や「青い惑星・地球」は、実は地球史のすべてに当てはまるわけではないかもしれません。

最近の研究からは、約30億年前から6億年前頃にかけて、地球の海の多くが今とは違う“緑色”を帯びていた可能性が強く示唆されています。

当時、海には還元型の鉄(Fe(II))が豊富に溶け込んでおり、やがて酸素を放出するシアノバクテリアなどの光合成生物によって酸化されることで、微細な酸化鉄が海水を漂うようになりました。

これらの粒子が紫外線や青い光を強く吸収し、水自体は赤色光を吸収するという特性が重なった結果、緑色の光だけが海の深い場所に届く“グリーンライト・ウィンドウ”が生まれたと考えられるのです。

「なぜ海が緑色だったのか?」「そこでどのような光合成が営まれていたのか?」――こうした疑問を突き詰めていくと、地球の環境が生物を変え、生物がさらに環境を変えていくという大きな連鎖が見えてきます。

本記事では、名古屋大学で行われた研究をもとに“緑色の海”という壮大な仮説と、その舞台裏で進んでいるシミュレーションや実験を紹介しつつ、私たちの宇宙観にもつながる興味深い示唆について探っていきます。

研究内容の詳細は2025年2月18日に『Nature Ecology & Evolution』にて公開されました。

太古の昔、生命を育んだ海は「緑色」だった!? ~25億年前の地球と光合成生物の進化の解明~ https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/02/-25.html
Archaean green-light environments drove the evolution of cyanobacteria’s light-harvesting system https://doi.org/10.1038/s41559-025-02637-3

古代海の謎:なぜ地球の海はかつて緑色だったのか?

地球の海は何十億年もの間、実は緑色だった
地球の海は何十億年もの間、実は緑色だった / 緑色で示された部分は、酸素が豊富になって鉄が酸化した水域を表しています。 オレンジ色の点は、海中に漂う酸化鉄の粒子を意味しており、これが光の吸収に影響を与えます。 黄色の破線で囲まれた領域は、酸化された環境で生きるシアノバクテリアが住んでいる場所を示しています。 一方、茶色の破線で囲まれた領域は、酸素が少ない還元環境で光合成を行う鉄酸化細菌が生息する場所を表しています。 この図は、海底から供給される還元型の鉄が、シアノバクテリアや鉄酸化細菌の働きで酸化され、酸化鉄の粒子となって海中に広がる過程を分かりやすく描いています。 その結果、これらの酸化鉄粒子が紫外線や青い光をしっかり吸収し、水が赤い光を吸収するため、海中には緑色の光が主に残る「グリーンライト・ウィンドウ」が形成されるのです。/Credit:Taro Matsuo et al . Nature Ecology & Evolution (2025)

地球の海が「青く」見える理由は、太陽光が水や大気で散乱・吸収される際に、主に青い光が残るためだとされています。

また、宇宙空間から見下ろした地球が淡い青に映るのも、空気中の分子によるレイリー散乱などが大きく関わっています。

そのため、私たちにとって“地球=青い惑星”というイメージは、ほぼ疑う余地のない常識になってきました。

しかし近年の研究によれば、地球が誕生してしばらくは大気に酸素が乏しく、海にも二価の鉄(Fe(II))が大量に溶けていた時期があるとされます。

特に、太古代(約40億~25億年前)から原生代前期(24億~16億年前)の時期にかけては、還元的な海洋環境が長く続いていた可能性が高いのです。

ところが、約30億年前ごろから、酸素を発生する光合成生物が徐々に広まり始めました。

彼らの活動によって海中の鉄は酸化され、三価の鉄(Fe(III))となって微粒子化し、海水中を漂うようになります。

こうした粒子は青や紫外線の波長を吸収しやすいため、海の奥深くには緑光が届きやすい環境――いわゆる“緑の海”――が生じたのです。

さらに、緑の海で生きる生物の視点から見ると、クロロフィルだけでは十分に光を活用できません。

そこで登場するのが、シアノバクテリアが持つ「フィコビリン」という色素です。

フィコビリンは緑色光を吸収し、葉緑素に効率よくエネルギーを渡すための“大型アンテナ(フィコビリソーム)”を形成します。

もし太古代の海洋が緑色光中心の光環境だったのなら、フィコビリンを活用できる生物が有利に繁殖し、酸素の産生をさらに促していた可能性があるわけです。

縞状鉄鉱床(バンド鉄鉱層)と呼ばれる地層からは、「大量の鉄と酸素が反応して生成した」という痕跡がはっきりと読み取れるため、海水中で何らかの形で酸化が起きていたことが確かめられます。

こうした地質学的証拠や、シアノバクテリアの分子系統学的分析、さらに環境再現実験などを総合すると、「昔の海が緑色だった」という見方は、単なるロマンではなく非常に具体的なストーリーを持つ説得力ある仮説として浮上してきました。

次ページ古代海が緑色に見えた証拠

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