衛星がとらえた「大陸規模の重力の異常」
地球重力場観測衛星GRACEは、宇宙から地球の重力場を観測し、地球の「重力地図」を作る人工衛星です。
この衛星は2機編隊で飛んでいて、互いの距離の変化を利用して地球の重力場を測定します。
例えば地表の厚い氷床や山脈、地下水など「質量が多いところ」の上空を通ると、先頭の衛星はわずかに引かれてほんの少し加速し、後ろの衛星との距離が一時的に広がります。やがて後方の衛星も同じ場所にさしかかると同じように引かれて加速し、距離は再び縮みます。
このように2機の間の距離の伸び縮みを電波で超高精度に測ることで、地球のどこに質量が多い部分や少ない部分があるかを推定して、地球の重力の“ムラ”を映した地図を作っているのです。
そんなGRACEが2007年、驚くべき現象をとらえました。
大西洋の東側、アフリカ大陸に面した広大な海域に、約7000km規模の「広大な重力異常」が突然現れたのです。しかもこの異常は数年で消え去り、あたかも海に巨大な「質量の影」がよぎったかのようでした。
通常の気象現象や海流の変動が生む影響はせいぜい数百~数千kmのスケールに収まります。7000km級というのは、その倍近いまさにアフリカ大陸に匹敵するサイズであり、既存の説明では到底収まらない規模でした。
ではこのとき、一体何が起きていたのでしょうか? 研究チームは、まず表層の現象が原因ではないかを検証しました。
アフリカや南米の大陸で雨が極端に降ったり、地下水が増減することで、重力場が変動することは確かにあります。しかし、それらの影響は広がっても2000〜4000kmほどで、観測された「約7000km規模の変動」には届きませんでした。
さらに大西洋の海面高さや塩分・水温のデータも含め、水や海の影響を複数のモデルで評価しましたが、観測された位置や規模、タイミングを再現できませんでした。
大気の変動についても検討され、2006年秋〜2007年初頭に弱いエルニーニョ期があったことは考慮されましたが、それを踏まえてもこの大陸規模の重力異常は説明しきれませんでした。
つまり、表層の現象ではこの「大規模な重力異常」を説明できないことが明らかになったのです。