地球の奥で起きていた“異常”の正体とは?
研究チームがたどり着いた仮説は、地球のはるか深部で起きた鉱物の「相転移」でした。
地球の下部マントルには「ブリッジマナイト(bridgmanite)」と呼ばれる鉱物が豊富に存在します。これはマグネシウムとケイ素を主成分とし、ペロブスカイトという鉱物と同じタイプの結晶構造を持つため「ペロブスカイト型鉱物」とも呼ばれます。
これがさらに高温高圧の条件に置かれると、「ポストペロブスカイト(post-perovskite)」という別の結晶構造に変化することがあります。この変化は水が氷になるような状態変化ではなく、固体のまま「原子の並び方」が変わる現象ですが、並び方が変わることで体積や密度が少し変わり、同じ成分でも重さの配置がわずかに変わるのです。
このイメージをつかむには、1kgの綿と1kgの鉄を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。どちらも重さは同じですが、綿は空間をふわっと広く占め、鉄は小さなかたまりにギュッと詰まっています。もし綿が鉄に変わるようなことがあれば、その占める範囲や重さの分布は大きく変わるでしょう。
こうした鉱物の相転移が深部マントルで起きていた場合、宇宙から見た地球の「重力分布」が歪む可能性があります。
もしこの仮説が正しければ、意味は非常に大きいといえます。
これまで「地球深部の状態」は地震波解析による間接的な推測に頼るしかありませんでした。地球重力場観測衛星で地球奥深くダイナミックな変化まで検出できるとは、研究者たちも考えていなかったのです。
ところが今回の報告は、GRACE衛星に従来見過ごされていた“地球深部をとらえる能力”が備わっていた可能性を示しています。これは深宇宙より見ることが難しい地球内部を覗くための新たな方法になるかもしれないのです。
さらにこの重力異常は、同じ2007年に記録された「地磁気ジャーク」と呼ばれる地球磁場の急変とも時期が一致しています。
地磁気ジャークとは、地球を取り巻く磁場の変化が、数年という短い期間で急に強まったり向きを変えたりする現象のことです。この現象は地球の外核やマントル深部の動きと関係していると考えられており、今回の重力異常と同時期に起きていたことは、両者が同じ深部プロセスに結びついている可能性を示唆します。
もし両者が関連しているとすれば、地球深部の物質変化と磁場の変動がどのようにつながっているかを理解する新しい手がかりになるでしょう。
これは、より長期的でダイナミックな地磁気変動であるポールシフト(数十万年に一度起こる地磁気逆転)の仕組みを理解する上でも、重要な手がかりになるかもしれません。
ただしこの報告については研究者自身も、あくまで「仮説段階」であり、決定的な証拠ではないことを強調しています。
今後の展望として、GRACEの後継であるGRACE-FO衛星などによる観測が期待されています。
重力場のデータだけでなく、磁場や地震波など異なる観測を統合することで、地球内部がどうなっているかをより正確に描き出せるようになるかもしれません。
2007年に東大西洋で観測された大規模な重力異常は、地球の奥で進む鉱物の相転移だった可能性があります。
その謎はまだ解き明かされてはいませんが、大規模な「重力のゆらぎ」は、私たちが当たり前のように立っている大地の下に、まだまだ多くの秘密が隠されていることを知らせています。
その昔太古の地球にぶつかった火星ほどの大きさのテイアが、マントル層の底で寝返りを打った!