地球の磁気圏、信じられない『帯電の逆転劇』の謎

電気の話をするとき、私たちは学校で「プラス(+)からマイナス(−)に向かって電気が流れる」と習いますよね。
これは基本中の基本なので、多くの人が当たり前のように信じています。
それなら、地球の周りにある宇宙空間――「磁気圏」と呼ばれる磁場のバリアの中で、プラス側からマイナス側へ向かう強い電気の流れがあるなら、その電気のスタート地点は当然プラスに帯電(プラス電荷が溜まった状態)しているはずです。
(※その電場の強さは、地球の磁気圏の端から端までおよそ7万ボルトほどにも達します。)
実際、科学者たちも長い間、そう考えてきました。
地球の磁気圏には朝側から夕側に向かって強力な電気的な力(電場)が存在することが、何十年も前から観測でわかっています。
こうした事実から、磁気圏の朝側(太陽の昇る側)はプラス、夕側(太陽の沈む側)はマイナスという帯電状態になっているだろう、と誰もが納得してきました。
20世紀の中頃から科学者が使ってきた磁気圏の「古典的モデル」というものがありますが、ここでも当然のように「朝プラス、夕マイナス」の帯電が描かれてきました。
この古典的なモデルでは、太陽から吹き付けてくる「太陽風」というプラズマ(電気を帯びた粒子の集まり)の強力な風の影響で、地球の磁気圏は後ろに引き伸ばされたしずくのような形になっています。
そして磁気圏の内部に閉じ込められたプラズマは、この太陽風の影響を受けて地球の周囲をぐるぐると回るように流れていきます。
こうしてプラズマが磁気圏内を「対流」することで、朝側から夕側にかけて巨大な電場が自然に発生すると考えられてきました。
この磁気圏の対流という仕組みはとても重要で、この対流のおかげで、私たちが夜空に見るオーロラの発生や、人工衛星や地球の通信に影響を及ぼす磁気嵐(宇宙天気の大嵐)など、さまざまな宇宙の現象が起きることがわかっています。
つまり、この「朝プラス・夕マイナス」は宇宙天気の理解において、まさに“常識中の常識”だったわけです。
ところが、最近になってとんでもない事実が発覚しました。
2024年、アメリカのMMS衛星という人工衛星が磁気圏内部の電気の分布を詳細に調べたところ、これまでの理解をひっくり返すようなデータが出てしまったのです。
なんと観測結果は、私たちが信じてきた帯電の方向とは真逆、「朝側がマイナスで夕側がプラス」という驚くべきものでした。
これは科学者にとっても青天の霹靂。
今までの磁気圏の電気地図をまるごと上下逆さまにして見なければならない状況になったわけです。
科学者たちは困惑しました。
「これほど強い電場が朝側から夕側に向かって存在するのに、どうして電気の符号が逆になってしまうんだ?」と、頭を抱えることになったのです。
これが本当だとすると、今まで信じられてきた磁気圏の仕組み自体を根本的に見直さなければなりません。
この謎を徹底的に解明すべく、京都大学を中心に名古屋大学・九州大学の研究チームが動きました。
研究チームは最新のコンピュータシミュレーションを駆使して、この不可解な現象に真正面から挑みました。
果たして、磁気圏で起きていたこの「電気の逆転現象」の本当の正体とは一体なんだったのでしょうか?