身長の遺伝的背景のほとんどが説明可能に!
身長の個人差に関わる遺伝子領域は、これまで、ゲノムワイド関連解析という手法を通じて、研究されてきました。
ゲノムワイド関連解析とは、ヒトゲノム配列の全領域に分布する多数の遺伝子変異を対象に、表現型との関連性を網羅的に見つけ出すゲノム解析の一つです。
しかし、現時点で判明している遺伝子領域を組み合わせても、身長の遺伝的背景のごく一部しか説明することができません。
身長の遺伝的背景の全容を明らかにするには、ゲノム解析のサンプル数を増加させる必要があります。
そこで研究チームは、国際共同研究グループ「GIANTコンソーシアム」を通じて、世界中から集められた約540万人を対象に、史上最大規模のゲノムワイド関連解析を実施しました。
GIANTコンソーシアムとは、「The Genetic Investigation of Anthropometric Traits(身体計測の特徴の遺伝的調査)」の略称で、身長や肥満など、身体計測値の個人差に関する遺伝的背景の解明を目的に結成された国際研究グループです。
GIANTコンソーシアムには、バイオバンク・ジャパンやUKバイオバンクなど、世界各地のゲノムコホートが参加しています。
バイオバンク・ジャパンは、約27万人の日本人集団を対象とした生体試料バイオバンクであり、ゲノムDNAや血清サンプルを臨床情報と共に集めし、研究機関にデータ提供を行っています。
UKバイオバンクは、約50万人のイギリス人を対象にゲノムデータを収集した、世界最大規模の生体試料バイオバンクです。
本研究に用いた約540万人のサンプルには、欧米人、東アジア人、南アジア人、ヒスパニック系、アフリカ系など、複数の人種集団が含まれています。
ゲノム解析の結果、チームは、身長の個人差に関連する約1万2000カ所の遺伝子領域を同定することに成功しました。
また、それぞれの人種で解析結果を比較したところ、身長の遺伝的背景が異なる人種集団間で共有されていることが明らかになっています。
これは、ゲノム情報にもとづいた身長の予測など、個別化医療(個々の患者に最適化を目指す医療)の発達において有用な知見になるとのことです。
さらに、これらの遺伝子領域を統合した結果、身長の個人差の40%が説明可能になることが判明しました。
身長の個人差のおよそ半分(40〜50%)が遺伝的背景に由来することを踏まえると、そのほとんどが説明可能になったことを示します。
加えて、サンプル数ごとにグラフ化してみると、300万人を超えたあたりから、ゲノム解析によって説明できる身長の遺伝的背景の割合の増加幅が小さくなっていることがわかりました。
下の図を見ると、400万〜500万人(とくに欧米系)では、ほとんど変化が見られません。
これまでの研究では、対象となるサンプル数を増やせば増やすほど、説明できる遺伝的背景の割合も多くなると指摘されていました。
ところが、この結果は、サンプル数を増加させることにも限度があり、本研究は、その上限に近づきつつあることを初めて示したと考えられます。
その一方で、今回の研究には、対象サンプルの大部分が欧米系であり、他の人種のサンプル数が少ないという課題がありました。
研究チームは今後、より広範囲にわたる世界中の人種を対象としたゲノム解析を展開したいと述べています。