タバコにコカイン生産に必要な全遺伝子を組み込むことに成功!
現在、多くの医薬品が植物から抽出される原料をもとに作られています。
しかし植物たちが薬用成分をどのようにして細胞内で生合成しているかは、多くが不明のままです。
麻薬の一種として知られるコカインの生合成過程も解明されていない過程の1つであり、研究者たちはコカインが抽出元となる「コカの木」からどうやって作られているかを100年以上にわたり研究を続けてきました。
ですが現在判明しているのは、コカインの一歩手前の成分(前駆体)までであり、最後の1押しが不明となっていました。
生合成はドミノの連鎖のように化合物を順番に変化させていく必要がありますが、コカインの場合は最終段階にある数ピースの倒し方(酵素)が特定されていない状況だと言えるでしょう。
生合成の詳しい過程がわからなくても、結果として目的の薬用成分が抽出できるなら問題ないと思うかもしれません。
確かに以前はその通りでした。
しかし遺伝子工学の進歩により、薬用成分の生合成を担う遺伝子たちを、元となる植物からより大量生産に適した植物や細菌に、ソックリ入れ替えることが可能になってきました。
近年コカインは医療用の麻酔薬としての利用が進んでおり、もしコカインの生産に必要な遺伝子たちを栽培に時間がかかるコカの木から、より簡単に育成できる穀物類や酵母菌に組み込むことができれば、生産コストの削減につながります。
そこで今回、昆明植物研究所の研究者たちは、100年にわたる謎を解明する最後の試みに挑みました。
結果、2つの酵素(EnCYP81AN15と EnMT4)がコカイン生合成の「最後の1押し」に関与していたことが判明します。
研究者たちは早速、これまで知られていたコカイン生合成にかかわる遺伝子たちに2つの酵素を作る遺伝子を加えた「遺伝子セット」を作成し、コカの木とは全く別のタバコの近縁種の遺伝子に組み込んでみました。
もし「遺伝子セット」がコカインの生合成に必要な要素を満たしているならば、タバコの細胞内部でもコカインが生産されはじめるハズです。
早速、研究者たちは遺伝子セットが組み込まれたタバコを栽培し、葉にコカインが含まれているかを調べました。
結果、葉の乾燥重量1mgあたり0.4μgのコカインが含まれていることが判明します。
この量はオリジナルのコカの木の葉に比べて25分の1と少量ですが、組み込まれた遺伝子セットがコカインを生合成するのに必要な要素を満たしていることを示します。
研究者たちは同様の手法で植物たちが薬用成分を作るのに使う「遺伝子セット」を特定して遺伝子組み換えを行えば、任意の生命体を医薬品生産工場に変化させられると述べています。
しかし、優れた技術には常に悪用の危険性が伴います。