俳優の顔年齢を自在にコントロールできる
映画業界では長年、俳優の顔の年齢を変えるために、熟練したアーティストが特殊メイクを直接施していました。
CG技術が登場してからは、画面上でシワやシミを追加(除去)できるようになったものの、フレームごとの丁寧な手作業が必要であり、映像の加工修正には少なくとも数日〜数週間を要します。
いずれにせよ、俳優の年齢操作は時間と労力とコストのかかる作業であり、出来映えにもクリエイターによってバラつきがありました。
また、ニューラルネットワークや機械学習を用いた年齢操作の自動化もすでに試みられていますが、残念ながら、静止画ではうまく機能するものの、動画では技術が安定していません。
そこでディズニー・リサーチ・スタジオは2年前から、こうした難点をクリアできるAIシステム「FRAN」の開発を進めてきたのです。
開発にあたり研究チームは、敵対的生成ネットワーク(GAN)を使い、18歳〜85歳までの男女の顔をランダムに数千個ほど生成。
(※ GAN:入力されたデータの特徴を学習することで、存在しないデータを生成できるAIアルゴリズムの一種)
その後、既存の機械学習による年齢操作ツールを用いて、これらの顔の老化・若返りを行い、その結果をFRANに入力してトレーニングさせました。
FRANは入力された顔写真を分析し、どの部分が老化の影響を受けるか予測することで、シワやシミ、肌質といった老いの効果を元の画像の上にレイヤーとして適用します。
若返りの操作に関しても同様です。
トレーニングの結果、FRANは、動画内の俳優が動き回ったり、表情が変化したり、照明の明るさが変わっても、正確な年齢操作ができるようになりました。
しかも、1フレーム当たりわずか5秒で顔を老けさせたり、若返らせることが可能とのことです。
研究チームは、FRANについて「動画内の顔の年齢操作を可能にする、初の実用的かつ完全に自動化されたAIシステムだ」と述べています。
FRANを使えば、これまで多大な時間とコストのかかっていた年齢操作がよりスムーズかつ簡単に、品質の差もなく行えるようになるでしょう。
また、6日に発表予定の研究タイトルに「Production-Ready(制作準備が完了)」とあるように、FRANはいつでも実用できる状態にあるようです。
ディズニーはすでに自社制作の映画内で、年齢操作された俳優の顔を何度も登場させています。
ディズニー独自のカウントによると、2022年の間に少なくとも12の映画とTVシリーズで年齢操作が使われており、今後FRANの参入で、その数はさらに増える見込みです。
来年公開予定の『インディ・ジョーンズ5』でカムバックを果たすハリソン・フォード(80)の顔にも、一部で若返りの技術が使用されていると言われます。
FRANは、登場人物が劇中内で年を取ったり、あるいは回想シーンで若返った姿を生成するのに大いに役立つでしょう。
しかし一方で、エンターテインメント産業におけるAIの浸透は、メイクアップアーティストや特撮美術の優れた熟練のスキルが失われてしまうことを意味するかもしれません。
伝統的な匠の技を忘れないためにも、AIと特殊メイクや美術の使い分けが必要でしょう。