クリトリスにはオス性器と同じ「勃起システム」も
1800年代から、有鱗目(ゆうりんもく、ヘビ・トカゲを含む爬虫類のグループ)のオスには「半陰茎(hemipenis)」と呼ばれる性器があることが知られていました。
その一方で、メスの性器はほとんど調査されず、1995年になってやっと、オオトカゲのメスに「ヘミクリトリス(hemiclitoris)」と名称される性器があったことが判明しています。
しかしそれ以後も「ヘビにはトカゲのようなクリトリスは存在しない」とされ、メスの性器の研究は進展がありませんでした。
これに関し、アデレード大学の進化生物学者で本研究主任のメーガン・フォルウェル(Megan Folwell)氏は「メスの性器の研究は歴史的にかなりタブー視されてきたからだ」と話します。
「メスの性器はオスに比べて、構造的に見つけるのが難しい上に、主要な研究テーマとしてあまり尊重されてきませんでした。
それはヒトにおいても同じで、クリトリスの適切な機能と意義については2006年になってもまだ議論が続いていたのです」
この状況に対し、フォルウェル氏は日頃から批判的な意見を持っていました。
そこで同氏と研究チームは今回、コモンデスアダーやカーペットニシキヘビ、パフアダー、クマドリマムシなど、全9種10匹のメス個体の解剖を実施。
その結果、ヘビには尾の裏側の皮膚に隠れるような状態で「クリトリス」が2つ存在することが判明したのです。
サイズや形状は種によって様々で、非常に薄いものもあれば、総排泄腔(cloaca)の周りのほぼ全てを占めているものもありました。
サイズは1ミリ以下〜7ミリまで幅があったようです。
フォルウェル氏によれば、コモンデスアダーの場合、クリトリスは「ハート型のような三角形」をしていたという。
最も重要な点は、クリトリスにオスの性器と同じような勃起組織が見られたことです。
クリトリスには複雑な神経束があり、血液の送り込みで膨張する機能があったため、「哺乳類のクリトリスと似た触覚感度を持っている可能性が高い」とフォルウェル氏は指摘します。
つまり、性交時の摩擦による快感をメスのヘビにもたらしていると思われるのです。
これについて、フォルウェル氏は次のような見解を述べます。
「快感は生殖における重要な要素です。
ヘビは非常に触覚の鋭い生き物ですから、皮膚越しでもかなり多くの感覚を得られるでしょう。
もしメスのクリトリスがオスとの接触で刺激され、何らかの快感を生むのであれば、より長くより頻繁な交尾を促し、結果として繁殖の成功率を高めると考えられます」
またチームは仮説の一つとして、「トゲの多いオスのペニスからダメージを防ぐための潤滑油の生成にも寄与しているかもしれない」と述べています。
いずれにせよ、クリトリスが見つかったことで、ヘビの性生活は従来考えられていた以上に複雑であることが予想されます。
これまではオスによる強制的な行為と思われがちでしたが、種によってはメスの方から誘惑したり、駆け引きをすることがあるのかもしれません。