二足歩行は「樹上での食料採集」のために獲得された?
調査地に選ばれたのは、東アフリカのタンザニア西部にある「イッサ・バレー(Issa Valley)」です。
イッサ・バレーは、樹木の少ないサバンナ地帯の中に密林地帯が点在する場所で、かつて人類の祖先が住んでいた環境とよく似ていることが分かっています。
つまり、そこに暮らす野生チンパンジーの行動を観察することで、化石記録だけでは分からない直立二足歩行の生態学的な推進力を知ることができます。
チームは15カ月間にわたり、成熟した13頭のチンパンジー(メス6頭、オス7頭)を追跡し、計1万3700以上の行動データを集めて分析しました。
分析の結果、チンパンジーは、サバンナと密林のどちらにいても樹上で過ごす時間は同じであることが判明しています。
チームにとって、これは意外な結果でした。
なぜならイッサ・バレーは、チンパンジーが分布する典型的な熱帯雨林よりも木が少ないため、樹上よりも地上で過ごす時間が自然と長くなると推測されたからです。
さらに驚くべきは、期間中に観察された直立二足歩行の85%以上が樹上で用いられていたことでした。
対して地上では、事前の予想とは違い、四足歩行が主流だったのです。
直立二足歩行が具体的にどんなシチュエーションで使用されるかを調べたところ、ほとんどが樹上で食物を探したり、採集するときでした。
木々の上で直立することは、頭上にある木の実や枝の先にある果実に手を伸ばすなど、明確なメリットがあります。
よって以上の結果は、樹上でより多くの時間をかけて徹底的に食物を探すために、直立二足歩行が出現した可能性を示唆するものです。
研究主任のアレックス・ピエル(Alex Piel)氏は、次のように述べています。
「私たちの研究は、数百万年前に起こったサバンナの拡大が、必ずしも直立二足歩行の誕生のきっかけにはならなかったことを示しています。
むしろ、樹上こそ直立二足歩行の進化に不可欠な場所であり、食料を隈なく探すことがそれを発達させる推進力となったと考えられるのです」
ただし、地上生活への移行が、直立二足歩行をより豊かに発達させたことは間違いないでしょう。
その一方でチームは、あまたいる霊長類の中で、なぜヒトの祖先だけが直立二足歩行を発達させ、地上生活に移行したのかは、いまだに謎のままだといいます。
チームは今後、この点の理解を深めるために、野生チンパンジーの調査を続けていくとのことです。
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