ヴィランの外面と内面のギャップに萌えている?
今回の研究では、4歳から12歳の子ども434名とその親277名に協力してもらい、映画の中のヴィランが行う反社会的な行動に対し、心理的にどう接しているかを調査しました。
実験では、マーベル映画の『スパイダーマン』やピクサー映画『トイ・ストーリー』の主人公ウッディなどをヒーローとして、ディズニー映画『ピーター・パン』のフック船長や『リトル・マーメイド』のアースラなどをヴィランとして用いています。
各参加者にはまず、提示されたヒーローとヴィランの行為に対し、善的であるか悪的であるかを評価してもらいました。
そして行為や感情として表れる外面とは別に、内に秘めた「本当の自己」についても質問し、参加者がどう考えているかを調査。
その結果、ヒーローについては事前の予想通り、外面と内面も向社会的で道徳性に優れ、善的であると評価されています。
一方で、ヴィランも外面と内面(本当の自己)ともに「ヒーローより圧倒的に邪悪で、ずっとネガティブである」と判断されていました。
ところが興味深いことに、ヴィランの方はヒーローに比べて、外面とは大きく異なる「本当の自己」を隠し持っていると考えられていたのです。
具体的には、ヴィランがどんなに自己中心的で、権力に飢えていても、参加者の多くは「ヴィランの中に善性が残っており、何らかの救いがあるに違いない」と考える傾向にありました。
これに反し、ヒーローに対する外面と内面のギャップは存在しませんでした。
研究主任のヴァレリー・ウムシャイト(Valerie Umscheid)氏はこう話します。
「調査の結果、子どもも大人も年齢を問わず、ヴィランは常日頃から不道徳な行為をしているにもかかわらず、内面的には善良な部分を残していると信じていました。
人々は、ヴィランの外面の行為と内面の本当の自己との間にミスマッチがあると捉えており、このギャップはヒーローよりも圧倒的に大きかったのです」
確かに、具体的なヴィランを思い浮かべてみれば、そう考えられる節も少なくありません。
たとえば、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーやバットマンの敵役のジョーカーは、最初から悪人だったのではなく、過去につらい目にあったことで、不運にもダークサイドに転じてしまったキャラクターです。
スパイダーマンのヴィランたちも皆、グリーンゴブリンにせよ、サンドマンにせよ、エレクトロにせよ、何か思い悩んだり悲しい経験に直面した結果として、ヴィランになっています。
それゆえ、「彼らにも善なる心は残っているのではないか」とか「問題が解決すれば善人に戻れるのではないか」と考えても不思議ではないのです。
ヒーローにおいてもただの善人として描かれるより、復讐心や嫉妬心、承認欲求にとらわれた人物の方が魅力を感じる部分はあるでしょう。
また、ヴィランがなけなしの善性を奮って、良い行いをする姿(たとえば、『スター・ウォーズ エピソード6/ ジェダイの帰還』のクライマックス)を思い浮かべてみてください。
おそらく、善人のキャラクターが同じ行為をするとき以上に感動的で、心を打たれるのではないでしょうか?
ヴィランに見出す外面と内面とのギャップゆえに、私たちは彼らを愛さずにはいられないのかもしれません。
もちろん悪役を好きになる理由は人それぞれ、今回の研究結果は唯一の答えを示しているのではなく、あくまで傾向を報告しているだけです。
人によってはそんな理由じゃない、と思うかもしれません。しかし、こうした研究報告は私たちがなぜ悪役に惹かれるのか、その理由を考える良いきっかけになるでしょう。