鼻ちょうちんを弾いて、鼻先を「蒸発窓」に!
これまでの研究で、ハリモグラの耐熱温度は比較的低く、35℃を超えると生存できないと指摘されていました。
しかし、生息地の気温が40℃を超えることは珍しくありません。
つまり、何らかの方法で熱対策をしていることは確かです。
ところがハリモグラは、同地に生息する他の動物とは違い、体を舐めて冷やしたり、発汗で熱を飛ばしたり、パンティング(※)をすることがありません。
では、どうやってオーストラリアの猛暑に適応しているのでしょうか?
※ パンティングは、呼吸スピードを上げて体内の熱を逃す体温調節の一種。犬が「ハアハア」と荒い呼吸を繰り返すのが身近な一例。
そこで研究チームは、ハリモグラの生息する西オーストラリアのドライアンドラ・ウッドランド(Dryandra Woodland)とボイアジン自然保護区(Boyagin Nature Reserve)にて、1年間にわたる現地調査を実施。
赤外線サーモグラフィを使って、少なくとも月に1度、124頭のハリモグラの体温と周囲の気温を測定しつづけました。
すると、周囲の気温が47℃近くまで上昇するケースがある一方で、ハリモグラの体温は常に30℃を下回っていたのです。
そして映像分析の結果、ハリモグラはいくつかの方法で熱を逃していることが分かりました。
まず、ハリモグラの背中に生えたトゲが断熱材となって、外部の熱を防ぐことが確認されています。
またトゲのない腹部や脚から体内の熱を放出し、これらが熱交換を可能にする「窓」として機能していました。
さらに、冷えた地面に腹這いになることで熱を逃す方法も取っていたようです。
しかし最もユニークだったのは、鼻水の泡を繰り返し吹き出して弾き、鼻先を湿らすことで熱を飛ばす冷却方法でした。
生態物理学者で研究主任のクリスティン・クーパー(Christine Cooper)氏は「泡が弾けて鼻先が濡れると、そこから水分が蒸発するときに血液が冷えるので、一種の蒸発窓(evaporative window)として機能するのです」と説明します。
その結果、ハリモグラの体の中で最も温度の低い部位は鼻先となっていました。
こうした冷却技術を用いることで、致死温度と考えられていた35℃を超えても活発に活動できるようです。
クーパー氏は「ハリモグラの耐熱に関する生態を理解することは、温暖化が進む気候にハリモグラがどう反応するかを予測する上でも重要でしょう」と述べています。
チームは次のステップとして、ハリモグラが鼻先や他の部位から実際にどれだけの熱を逃しているかを定量化していくとのことです。