ゲームのサイコロ、編み物の道具、儀式用のオブジェ?
破片を発見したパトリック・シューマンス(Patrick Schuerman)氏は長年、金属探知機を用いた発掘調査を続けている熟練したアマチュア考古学者です。
氏は昨年、ベルギー北東部リンブルフ州の町コルテッセムにて、中空十二面体の破片を発見し、12月に同州にあるガロ・ローマン博物館(Gallo-Roman Museum)に寄贈しました。
同館の学芸員で考古学者のグイド・クレーマーズ(Guido Creemers)氏は「破片の大きさや鋲の存在から、元々5センチ余りの中空十二面体の一部だったとみて間違いない」と話します。
これまでに見つかった中空十二面体はいずれも1~5世紀頃の遺跡で出土しており、古代ローマ時代に使われた遺物であることが分かっています。
その一方で、用途についてはいまだ意見の一致を見ていません。
代表的なものとしては、ある種のカレンダー、土地の測量器、武器の一部、種をまく時期を決める道具、ゲーム時に使うサイコロのようなもの… といった説があります。
しかし近年で最も注目されている説は、編み物の道具です。
具体的な使い方は以下の動画で確認できますが、各面の穴に糸を通し、規則正しく鋲に引っ掛けて編み込んでいくようです。
動画内では、手袋の指先が器用に編み込まれていく様子が見られます。
編み物の起源は古く、旧石器時代にまで遡ると言われており、手編みの文化は古代ローマ時代にも十分に浸透していました。
そのため、編み物に使用された可能性はあり得ますが、あくまで推測の域を出ておらず、証拠も十分ではありません。
しかしこういう使い方ができるのは事実であり、とても興味深い考察です。
商品化すれば、現代でも流行るかもしれません。
これらの仮説に対し、クレーマーズ氏を始めとする考古学者らは「魔術や占い、儀式に使用された可能性が最も高い」と指摘します。
最も大きな理由は、中空十二面体がすべて古代ローマ帝国の北西部のみ(その多くが埋葬地から出土)で見つかっており、地中海周辺やそれ以南では見つかっていないことです。
これについてクレーマーズ氏は「当時のローマ帝国の北西部にはケルト人が住んでおり、中空十二面体は彼らの異文化に影響された儀式用のオブジェクトかもしれない」と述べています。
ケルト文化は「ドルイド」という宗教的指導者を中心に、神に生贄を捧げて呪術的な儀式を行うことで知られ、キリスト教に大きく反する信仰を持っていました。
それゆえ、ローマ人からは「未開の野蛮人である」と揶揄されています。
また、中空十二面体の多くが破片で見つかるのは「儀式の際に故意に破壊されたことを示唆している」といいます。
加えて、キリスト教の下では魔術や占いといった神秘的な行為が固く禁じられており、違反者への罰も厳しいものでした。
つまり、中空十二面体に関する記録が残されていないのはそれが原因と考えられるのです。
魔術や儀式がバレないように使い方を文書として残さず、こっそり使用したのかもしれません。
ベルギーのリンブルフ州では1939年に一度、古代ローマ時代の城壁の近くで中空十二面体が見つかっており、今回はその貴重な2例目の発見となります。
ガロ・ローマン博物館では2月から、新たに見つかった中空十二面体の破片を展示する予定とのことです。