イルカに触れずに「斑点」で年齢を推定
前述の通り、イルカは人間とは違い肌に皺が現れるなどの変化がありません。
しかし、近畿大学農学部を中心とする研究チームは伊豆諸島の御蔵島のミナミハンドウイルカの観察を通じて、ミナミハンドウイルカの腹部に現れる斑点が成長とともに規則性を持って現れることを発見しました。
腹部の「斑点」という外観から年齢を判定できるようになれば、生きて泳ぎ回っているイルカでも一切触れずに年齢の把握が可能になります。
年齢とともに表れるミナミハンドウイルカの「斑点」
同研究チームでは1994年から水中カメラを用いたミナミハンドウイルカの観察を行っており、蓄積された個体の実年齢と斑点パターンから斑点が成長に伴い増え続けていくことを発見しました。
斑点は生殖孔の周辺に6歳ごろから出現し、その後成長に伴い頭部及び体側に出現範囲が広がっていきます。
観察によって27歳までの間に斑点が増えていくことが確認されていますが、調査が始まる前からいる年齢不明の高齢個体についてはよりたくさんの斑点が見られたことから、生涯にわたり年齢を経るごとに斑点が増えていくことが示唆されました。
数量化理論で斑点と年齢の関係式を作成
同研究ではこの年齢に応じて増えていく斑点の出現度合いを3段階に分け、5つの部位ごとに評価しています。
さらに、この画像から得られる情報を「数量化理論」と言われる解析方法で統計解析し、年齢と斑点の関係式が完成しました。
ミナミハンドウイルカの年齢と斑点の関係式により、調査以前に生まれた個体の年齢把握も可能となり御蔵島周辺で観察されたイルカの年齢情報の85%以上が判明したと言います。
このようにある特定の地域に住むイルカの個体群について、85%以上の年齢を把握できるというのは非常にまれなことであるため、今後より一層ミナミハンドウイルカの生態解明が進むことが期待されています。
イルカに優しいだけでなく、効率も良い生態調査
今回発表されたイルカの年齢測定法はカメラの撮影のみで年齢が測定でき、イルカに触れずに行えるため、イルカにストレスをかけることなく調査を行うことができます。
またミナミハンドウイルカの斑点については年齢だけでなく形状によって雌雄を判断できるともされているため、今後は個体の年齢だけでなく性別把握も進んでいくでしょう。
水中カメラでの撮影で行える年齢判定はイルカに負担をかけないだけでなく、さまざまな場所で応用可能で効率の良い生態調査です。
今後世界中でこのような生態調査が進み、イルカの保全活動が進むことを期待します。