オスマウスの皮膚を卵子に変換して受精させ子供を作ることに成功!
近年のiPS細胞技術の進歩は目覚ましく、皮膚などの体の細胞をリプログラムすることで、体のあらゆる種類の細胞を作り出すことが可能になっています。
この「可能」の範囲には、精子や卵子の細胞も含まれており、皮膚細胞から精子や卵子を製造することも可能だと考えられています。
実際、2016年に行われた研究では、メスマウスの皮膚細胞をリプログラムすることで卵子を作り出すことに成功しています。
しかしオスマウスの皮膚から卵子を作るにはY染色体を上手く排除する必要があり、実現には長い時間がかかると考えられていました。
しかし九州大学の研究者たちにより、極めてシンプルな方法で実現することになります。
新たな技術の基礎となったのは、Y染色体の不安定さでした。
マウスのオスも人間の男性と同じく、性染色体はXとYが1本ずつ存在しています。
しかしY染色体は細胞が生存するだけならば必要ありません。
(※実際メスマウスも人間の女性もY染色体などなくても生物として健康に過ごせています)
そのためオスマウスの細胞を実験皿で増殖させていると、たまにY染色体をコピーし損ねて、X染色体が1本しかない細胞がうまれることがあるのです。
そこで研究者たちはオスマウスの皮膚から万能性を持つiPS細胞(幹細胞)を作成し、増殖させながら自然にY染色体を「落とした」ものを選び出しました。
この方法を使うことで、卵子作成に邪魔になるY染色体を排除することが可能になります。
次に研究者たちはY染色体を落としてしまった幹細胞に操作を行い、細胞分裂後に一部の細胞がX染色体を2本持つように誘導しました。
するとオスの幹細胞(XY)ではなくメスの幹細胞(XX)と言える状態になります。
続いて研究者たちはメス化したオスの幹細胞(XX)に卵細胞に変化するように操作を行いました。
この操作の基礎となったのは2021年に同じ九州大学行われた研究であり、マウスの卵巣環境を再現することで、幹細胞を人工卵子へと変化させる技術になります。
そして最後に卵子へと変化した元幹細胞たちに、別のオスマウスから採取した精子を注ぎ込み、受精卵を作り出したのです。
実験ではこの方法で600個あまりの受精卵が作成。代理母となるメスマウスの子宮に移植した後、最終的に7匹の健康な赤ちゃんマウスが誕生しました。
簡単に言えば、オスマウスの皮膚から作った卵子と別のオスマウスからとってきた精子をあわせて受精させ、代理母に子宮だけ借りて赤ちゃんを産ませたのです。
一連の過程でメスが必要とされたのは代理母としてのみであり、生まれてきた7匹の赤ちゃんマウスの遺伝子は全て2匹のオスマウスに由来します。
研究者たちはこの技術を人間に応用することができれば、ターナー症候群の女性の不妊を治療できるだけでなく、男性同士のカップルであっても自分たちの遺伝子を均等に受け継いだ子供を持てると述べています。
しかしこの技術は(身も蓋もない言い方をすれば)男性の皮膚を材料に卵子を作る技術です。
そのため、理論的には、卵子の材料として皮膚を提供する男性と、精子を提供する男性が同一人物でも問題ありません。
つまり代理母の存在を介することで、男性1人で遺伝的な意味での単為生殖が可能になるのです。
ただ単為生殖を実現する手段としてこの技術を使うことについて、研究者たちは懸念を持っているようです。
理論的に可能であるとしても、安全である保障はなく、倫理的に受け入れられない場合があるからです。
ただ男性の皮膚からも女性の皮膚からも卵子を作れるという事実は、人間の生殖を新たな段階へと押し上げるものになるでしょう。
(※精子については既に皮膚を材料に作ったiPS細胞から製造できることがわかっています)
皮膚から精子や卵子が作れるという事実は、生殖における男女両性の存在を曖昧にするからです。
さらに現在、人工子宮の技術も急速に進展しているため、将来的には子孫の生産に必要なのは培養細胞だけとなる可能性もあります。
もうそうなると、生殖における性の実質的な意味さえ失われるかもしれません。
そうなれば人類にとっての「性別」とは一体何を意味するものになるのでしょう。