培養中の胎児の心臓の動き。培養胎児には「へそのお」が存在しない
培養中の胎児の心臓の動き。培養胎児には「へそのお」が存在しない / Credit:Nature
biology

人工子宮でマウスの受精卵を「胎児」まで成長させることに成功

2021.03.21 Sunday

3月17日の水曜日は、生物学にとって記念すべき日になるでしょう。

同日、自然科学分野において最も権威ある科学雑誌『Nature』に掲載された論文によれば、マウスの受精卵を人工子宮を使って胎児にまで成長させることに初めて成功したとのこと。

SFや漫画では胎児が試験管内で製造されている場面がよく見られますが、現実世界で同じシーンを実現させたのは、今回の研究がはじめてになります。

左が培養胎児、右が通常の胎児。両方の胎児には大きな違いは存在しない
左が培養胎児、右が通常の胎児。両方の胎児には大きな違いは存在しない / Credit:Nature

今回の技術が人にも応用可能になった場合、人工子宮で受精卵を培養して赤ちゃんを生産することが許されるのかどうかという倫理的な問題も発生します。

社会に大きな影響を与えるであろう胎児の培養技術とは、いったいどんなものなのでしょうか?

The method is set to reveal the hidden first stages of embryonic development – from a tiny ball of cells to organ growth https://wis-wander.weizmann.ac.il/life-sciences/advanced-mouse-embryos-grown-outside-uterus Scientists Grow Mouse Embryos in a Mechanical Womb https://www.nytimes.com/2021/03/17/health/mice-artificial-uterus.html?
Ex utero mouse embryogenesis from pre-gastrulation to late organogenesis https://www.nature.com/articles/s41586-021-03416-3

人工子宮で受精卵を胎児にまで成長させることに初成功!

培養カプセルの中で培養中の胎児。心臓が動いているのがみえる
培養カプセルの中で培養中の胎児。心臓が動いているのがみえる / Credit:Nature

これまで、哺乳類の胚を子宮の外で成長させる人工子宮技術の開発が多数おこなわれてきましたが、そのほとんどが失敗に終わりました。

卵の中で成長が完結する魚やカエルとは異なり、哺乳類の胎児が成長するには子宮と胎盤の接続を通して外部から大量の栄養と酸素を供給する必要があるからです。

中でも特に酸素は大きな問題でした。

盛んに細胞分裂をおこないながら大きくなっていく胚は、大量の酸素を必要としていましたが、胚が母体と繋がっていない状況では酸素を胚に届ける手段がありません。

そのため既存の研究では、胚は大きくなる前に窒息死せざるを得ませんでした。

これまでの人工子宮技術では、胎児の段階にまで成長させられなかった
これまでの人工子宮技術では、胎児の段階にまで成長させられなかった / Credit:Nature

しかしイスラエル、ワイツマン科学研究所のカレストレジョン氏をはじめとした研究チームは、機材さえあれば誰でも実行可能な、ちょっとした工夫で、この酸欠問題を解決します。

結果、上の図のようにマウス胚を培養液の中で胎児の段階にまで成長させることに成功しました。

いったいどんな手法で、研究チームは酸素供給を成功させたのでしょうか?

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