「鉛中毒」と診断された毛髪は他の女性のものだった!
本研究の目的は、ベートヴェンの健康面に新たな光を当てることです。
ベートーヴェンについて今日知られているのは、20代半ばで進行性の難聴を発症し、40代後半には完全に耳が聞こえなくなったこと。
生涯続く慢性的な胃腸障害や下痢に悩まされていたこと。
そして晩年に重度の肺炎や肝臓病の症状である黄疸を患ったことなどです。
しかし偉大な音楽家を56歳で死に至らしめた直接的な原因についてはいまだ議論が続いており、決着がついていません。
そこで研究チームは、イギリス・ドイツ・アメリカの公共および個人が所蔵する「ベートーヴェンのものとされている8つの髪束」を対象にDNA鑑定を実施しました。
DNAデータおよび一緒に残されていた記録文書の綿密な調査から、このうち5つの髪束は「最後の7年間に採取されたベートーヴェン本人の毛髪と見てほぼ間違いない」と結論されました。
しかしこれはつまり、ベートーヴェンのものとされていた毛髪サンプルの内3つは、ベートーヴェン本人のものではなかったということです。
そして問題なのが、ベートーヴェンの毛髪ではないと断定されたサンプルの中に「鉛中毒説」の根拠となった髪束があったことです。
これは当時15歳の音楽家フェルディナント・ヒラー(1811〜1885)がベートーヴェンの髪から切り取った一部と伝えられていました。
ところが髪束を調べてみると、ベートーヴェンではなく、ユダヤ系の女性の毛髪であることが発覚したのです。
これを受けて同チームのウィリアム・メレディス(William Meredith)氏は「その髪束にもとづくこれまでの分析(つまり鉛中毒説)はベートーヴェンには一切当てはまらない」と話しました。
まずこれで鉛中毒による死亡説は消えたことになります。
ではベートーヴェンは死の直前にどんな健康状態にあったのでしょうか?