脳波を検知する従来の非侵襲性センサーにはジェルが必要だった
脳波コントロールを実現させるには、脳の表層である「大脳皮質」が発生させる電気活動を検知しなければいけません。
脳の電気信号を検知することで、利用者の意図した通りに機械の操作へフィードバックさせる研究はある程度成功を収めています。
ただ、問題となるのは脳波をどうやって読み取るかという方法です。
視覚刺激を利用するタイプの脳波コントロールでは、大脳皮質の中でも、目から送られてくる情報を処理する「視覚野」の脳波を取得します。
視覚野は主に後頭部に位置しているので、脳波はここを中心に読み取られます。
もっとも精度良く脳波を検出する方法は「針状の電極を頭に刺す」ことです。ただこうした侵襲性センサーを受け入れる人はまずいないでしょう。
そのためこの方法は実用性があるとは言えず、活用できる場面は限られます。
そこで「シートを頭に貼るだけ」「カバーを被せるだけ」といった体を傷つけない非侵襲性センサーの精度を高めることが、科学者たちの目指すこのシステムの重要な目標のとなっています。
ただ、これを達成するのは容易ではありません。
非侵襲性センサーの精度を高めるには、導電性を高めたり、センサーを頭部の形に沿ってなるべくぴったり接触させたりする必要がありますが、頭部の丸みや髪の毛がそれを邪魔しています。
現在もっとも有用な方法は頭皮と髪にジェルを塗布して導電性を高める「湿式(ウェットタイプ)センサー」です。
しかしこのジェルを利用した方法は、毛髪が汚れるという問題以外にも、皮膚の炎症やアレルギー反応、ユーザーの動きでセンサーがずれ易い、ジェルが乾燥していくため長時間利用できないなど、多くの問題点が存在しています。
ジェルを用いない乾式(ドライタイプ)センサーも存在しますが、湿式センサーに比べて導電性が低く、頭の形によって接触状態も変化してしまうため十分な精度は発揮できていません。
こうした背景にあって今回の研究チームは、頭の形に沿って曲がり、かつ高い導電性を備えた乾式センサーを新しく開発することを目指したのです。