イヌはご褒美がなくても人間の真似をする
実験ではほとんどの動物が対象物に対して「鼻」で触れていましたが、これに対して実験では人間が「手」を使って対象物に触って見せています。
人間が「手」を使う様子を見てから、動物たちがどう行動するか観察した結果、イヌだけが人間と同様「前足」を使って対象物に触れるようになりました。
無論、人間の真似ができたからと言っておやつなどのご褒美がもらえるわけではありません。
にも関わらず、イヌは人間の仕草を「真似」し、人間からやり方を「学習」したのです。
ネコとオオカミは人間のようすを見ても変わらない
前のページでも述べた通り、ネコとオオカミについてはそもそも人間の行動や声掛けに興味を示すことすらほとんどありませんでした。
当然、人間が行った仕草を真似するということもなく、もともとの鼻を使ったやり方のまま行ったり、対象物から興味を失い触れなくなったりするだけでした。
イヌの「生来の社会性」と「人間との関係」両方が必要
ネコもオオカミもイヌのように人間の真似をしなかったことを考えると、食物などの報酬がなくても真似によって学習するのはイヌが持つ「品種生来の社会性」と「人間と築いた家畜化の歴史」両方が必要だったためと考えられます。
イヌと同様人間と長く暮らすネコですが、イヌが人間と狩猟をするときのように「共に助け合って行動する」わけではなく、「穀物に寄ってくるネズミを退治したい」という人間の思いと「ネズミを食べたい」というネコの希望が合致していただけにすぎません。
また、オオカミはイヌと同様に群れの中で社会性を持ち、親や年長者の真似をして学習する生き物ですが、イヌのようにメリットのない場面では真似する行動を取りませんでした。
イヌとオオカミの社会性は近いものがあるため、この違いは人間と共に暮らした歴史の長さが関係する可能性があります。
つまり社会性の高いイヌは、人間と暮らすうちにだいぶ人間臭くなっていて、意味のない遊びにおいても報酬とは関係なく人間の真似をしようとするようになったのかもしれません。
このように、ネコやオオカミの子供とは異なる方法で人間から学習することができることが明らかになったイヌですが、この結果はイヌと人間の未来にどのような影響をもたらすのでしょうか?
人間の親子のように「真似」で育つ子犬
今回の実験の結果を考えると食べ物という報酬に頼ってしまいがちな動物のトレーニングも、子犬の場合なら「飼い主(≒親や年長者)の行動を真似する」という性質を活かして進めることができる可能性が十分にあります。
ご褒美などがなくても、人間の真似をして学習していくイヌの子供のようすは、まるで人間の親子のようだと感じてしまいました。
人間の親子がそうであるように、イヌもまた意図せず飼い主の良い部分も悪い部分も学べてしまうと考えると、飼い主として襟を正さなくてはいけないような気がしますね。