立体的なガラス細工を「折り上げる」新技術を開発!
同チームは以前、ポリマーを材料にして折り紙と切り紙の技術を再現する研究を行っていました。
※ ポリマーとは、プラスチックの原料となる小さな分子(モノマー)をたくさんつなげた高分子のこと。
しかし研究主任のタオ・シエ(Tao Xie)氏は「この技術をポリマーより複雑な形に加工するのが難しいガラスにも応用したいと考えた」と話します。
通常、ガラスの立体オブジェは、金型に流し込むか吹きガラスの手法で成形するか、あるいは3Dプリンターで作られることがほとんどです。
ところがガラスは脆く割れやすいため、これらの方法では折り鶴のような複雑なオブジェは作れません。
そこでチームは、立体的なガラス細工を折り上げる新たな技術を開発しました。
この技術は簡単に言うならば、ガラス成分を練り込んだ折り紙で鶴を作った後、ガラス以外の成分を除去してガラス製の折り鶴を作ってしまうというものです。
その具体的なプロセスは次のようなものです。
まず、液体状の感光性ポリマーと他の化合物を混ぜた溶液に、ガラスの主成分である「シリカのナノ粒子」を加えます。
※ 感光性ポリマーとは、光を当てることで性質が変化するポリマーのこと。
これに紫外線を当てると、溶液が「架橋性ポリカプロラクトン」という小難しい名前の固体ポリマーに変化します。
架橋とは、ポリマー同士が橋を架けるようにして繋がり、高温下でも液体に溶けにくくなる現象ですが、このとき、固体ポリマーの中にシリカのガラス玉が、研究者いわく「レーズンパンのレーズンのように全体に浮き上がる」と言います。
この状態になると、固体ポリマーは粘土のような不透明の材質となり、折り曲げたり、ねじったり、引っ張ったりして好きな形に加工することが可能です。
ここでチームは、折り鶴やレース状の花瓶、さらに切れ込みを入れた鳥の羽などを成形しました。
固体ポリマーは室温環境でも成形した形を保持しますが、129℃で一度加熱することで完全に固形化します。
これは熱を加えることでポリマー鎖の結合が変化し、新しい形状がしっかりと固定されるためです。
次に、この固体ポリマーを593℃以上の高温で2度目の加熱にさらします。
すると不透明のポリマー部分が溶け出して、シリカのガラス玉がつながった状態の半透明の折り畳み体が浮かび上がります。
これをいったん冷やした後、さらに3回目の加熱工程で1260℃以上の高温にさらします。
その結果、今度はシリカのガラス玉が溶けて互いに融合し、透明かつ滑らかな仕上がりとなります(上図の右端)。
こうして、まるでガラスで折り紙や切り紙をしたような立体オブジェが出来上がるのです。
シエ氏は「この技術を用いれば、金型や吹きガラスよりも複雑な形状が作れる」とし、さらに「3Dプリントよりも遥かに早く仕上がる上に、3Dプリントに見られるような粗い層ができることもない」と話します。
チームは現在、この技術をガラスだけでなくセラミックにも拡張しようと試みています。
ガラスが脆くて割れやすいのに対し、セラミックは義歯にも使われるように耐性の強い素材です。
つまり、セラミックで同じ技術が再現できれば、ガラスオブジェのような単なる観賞用だけでなく、実用性のある道具を作れるようになるでしょう。
こちらは研究チームが「アメリカ化学会 2023」で発表した内容の動画です。