細胞が細長く伸びて互いにツタのように絡まっている
巨視的サイズに進化した酵母に何が起きたのか?
謎を確かめるべく研究者たちは多細胞化した酵母を薄くスライスし、個々の細胞を観察しました。
すると、上の図のように、元々楕円形だった酵母たちの細胞がさらに細長く変形し(アスペクト比が1.2から2.7に変化)、さらに細長くなった細胞たちが互いに絡まり合うように密に配置されていることがわかりました。
この細胞の伸長には細胞密度を減少させ、内部に詰め込まれている細胞間のストレスや歪みの蓄積を遅くし、大きなグループを維持しやすくする効果がありました。
研究者たちは多くの細胞が軋轢なく共存できる仕組みは多細胞生物に必要な、細胞同士の相互作用の第一歩となる可能性を指摘しています。
また細長い細胞がツタのように互いに巻き付くことで、物理的な強靭さを得ることができました。
キノコや地衣類など多細胞形態をとる菌類は複数の菌糸のかさなり合いにより構成されていることが知られています。
そのため細胞同士の絡まりも多細胞生物へ進化する過程で重要なステップの1つになっていると考えられます。
さらに研究者たちは多細胞化によって獲得された物理的な強靭さが、次のステップ、つまり血管など内部の細胞に栄養を届ける循環系を発達させるカギになっていると述べています。
循環系を作る管に最ももとめられるのは、栄養の流れによって崩壊しない材質としての強靭さだからです。
多細胞化による巨大化は必然的に内部にある細胞たちに栄養を自力で取り込む機会を奪い「飢え」をもたらしますが、循環系が構成されれば、内部の細胞たちも栄養を得ることが可能になります。
研究者たちは現在、多細胞化した酵母をさらに進化させ、内部の細胞に栄養を供給するシステムを獲得させる方法を探している、とのこと。
もし順調に進化が起これば、多細胞化、循環系に続いて消化器官系や筋肉、神経系、脳を獲得し、いつかは酵母で構成された小動物を誕生させられるかもしれません。
【編集注 2023.5.17 10:00】
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