クジラのDNA修復遺伝子を特定しマウス細胞に組み込んでみる
ホッキョククジラはどんな仕組みで優れたDNA修復能力を得ているのか?
謎を確かめるために研究者たちは、ホッキョククジラの細胞を調べ、どんな遺伝子が活性化しているかを調べてみました。
するとホッキョククジラの細胞では「CIRBR」と呼ばれるDNA修復遺伝子が、人間・マウス・ウシなど他の動物に比べて高レベルで発現していることが判明します。
そこで研究者たちはホッキョククジラのCIRBR遺伝子を人間やマウスの細胞に組み込んで、DNA修復能力に変化が現れるかを調べてみました。
すると、ホッキョククジラのCIRBR遺伝子を組み込まれた人間とマウスの細胞は、通常と比べて2重鎖切断を2倍効率的に修復できるようになっていることが判明します。
研究者たちは「人間のCIRBR遺伝子をクジラのCIRBR遺伝子に置き換える遺伝子治療や、製造されるCIRBRタンパク質の量を増大させる薬を開発することができれば、人間のDNA修復能力を改善し、長寿命化とがん耐性強化が実現する可能性がある」と述べています。
ただ、DNA修復能力を強化することは、ある副作用を発生させずにはいられません。
それは進化スピードの低下です。
生命の進化はDNAに発生する突然変異をキッカケにして起こりますが、DNA修復能力が高い場合、害となる変異だけでなくプラスの効果を持つ変異の発生をも妨げてしまうからです。
完璧なDNA修復能力が進化の可能性の完全否定につながるという事実は、非常に興味深いものと言えるでしょう。