ニューラリンクのヒト臨床試験をFDAが承認
ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI:Brain-computer Interface)とは、その名の通り、脳とコンピュータを繋ぐ装置のことです。
「手を使わなくても念じるだけでゲームをプレイする」など、脳活動を利用してコンピュータを操作するためのデバイスを指します。
ニューラリンク社は、これまで脳に埋め込むタイプのBCIの開発に取り組んできました。
2021年には、ワイヤレス脳インプラント「N1 Link」が埋め込まれたサルによるデモンストレーションが公開されています。
動画では、サルが思考だけでピンポンゲームを行っている様子が映し出されました。
この時点で、動物が思考だけでコンピュータを操作することに成功していたのです。
現在、ニューラリンク社のWebサイトでは開発中のBCIが「N1 Implant」と名付けられています。
この円盤型の脳インプラントには、脳活動を読み取る細い電極(髪の毛の直径の約4分の1)が1024本あり、人間の耳の後ろあたりに埋め込まれます。
また小型のバッテリーとワイヤレス充電機能も内蔵されているようです。
そして2023年5月25日、ニューラリンク社はアメリカ食品医薬品局(FDA)からヒト臨床試験開始の承認を取得したと発表しました。
マスク氏によると、ヒト臨床試験の許可を得るための試みは2021年から始まっていたようであり、今回の発表は2年以上の粘り強い働きかけの結果だと言えます。
ちなみに2022年12月には、ニューラリンク社が動物福祉違反の疑いでアメリカ合衆国農総省の調査を受けていると報じられていました。
「マスク氏が成果を急ぐあまり、多くの動物が犠牲になっている」と、内部スタッフから告発があったようです。
また以前からニューラリンク社のBCIには、ヒト臨床試験を開始するためにクリアすべき多くの課題があると考えられてきました。
例えば、BCIを脳に埋め込んだり取り外したりする際に、被験者の脳を損傷や感染、出血、炎症から保護できるという証拠を提示しなければいけませんでした。
埋め込んだBCIによって意図しない副作用(脳機能の低下、頭痛、気分障害、認知障害など)が起きてもいけません。
さらにバッテリーの熱で被験者の脳が焼かれないよう設計することも大切です。
加えてBCIで収集した脳波データがハッキングなどにより悪用されるのを防ぐためにも、強力なセキュリティとプライバシーの保証がなければいけません。
こうした課題点が完全に解決されたわけではないかもしれませんが、FDAの厳格な承認プロセスを考慮すると、今回の承認の発表は、それぞれの要素が少なくとも一定のレベルに到達したと推測できます。
ニューラリンク社の2023年5月26日のツイートによると、臨床試験の募集はまだ始まっておらず、詳細は近日中に発表されるようです。
We are excited to share that we have received the FDA’s approval to launch our first-in-human clinical study!
This is the result of incredible work by the Neuralink team in close collaboration with the FDA and represents an important first step that will one day allow our…
— Neuralink (@neuralink) May 25, 2023
ニューラリンク社は「現在、四肢麻痺の患者が思考でコンピュータやモバイル機器を操作する」ことに重点を置いており、ヒト臨床試験によって、この技術の実現はますます近づくでしょう。