16億年前に存在した「地球最初のプレデター」を発見か
真核生物そのものの化石は発見が困難であるため、研究者らは代わりに真核生物が残した化学的痕跡を探し続けてきました。
特にターゲットとしたのが、脂質の一種である「ステロール」です。
ステロールは真核生物によって合成される脂肪分子であり、古生物学では、地層中のステロールが真核生物の存在を示す指標(バイオマーカー)として用いられます。
そして研究チームは今回、オーストラリア北部に位置する「バーニー・クリーク累層」の16億年前の海底で作られた岩石から、真核生物の作り出したステロールの痕跡を新たに発見したのです。
この脂肪分子は、今日の真核生物に見られるステロールとは異なる原始的な化学構造をしており、これまで確認されたことのないものでした。
そのためチームはこの分子を「プロトステロール」と名付け、これを分泌していた未知の真核生物たちを「プロトステロール・バイオタ(=プロトステロールを作り出す生物相)」と命名しています。
さらに、新たに判明したプロトステロールの化学構造をもとに、これまで世界中で採取されてきた十数億年前の岩石サンプルを調べたところ、プロトステロールと同じ分子がすでに大量に見つかっていたことが分かったのです。
これについて、ネッターシャイム氏は「プロトステロールが、従来使ってきた典型的な分子検索パラメーターに適合しなかったため、私たちは約40年もの間、これらの分子を見落としていたのです」と話しています。
これによって、初期の真核生物はLECA以前に太古の海で広く繁栄していたことが示されました。
研究者らは「プロトステロール・バイオタは、細菌や古細菌などの原核生物よりも複雑で大きかったでしょうが、その見た目は不明である」と述べています。
「生物相」というだけあって、プロトステロールを合成した真核生物は多種にわたり、見た目も様々だったはずです。
ここに挙げている一連の画像も、研究チームがプロトステロールのデータをもとにAIに作らせたものだといいます。
さらに研究主任のヨッヘン・ブロックス氏は「プロトステロール・バイオタは、地球上で最初の捕食者であり、バクテリアを狩っては、次々に貪り食べていた可能性が高い」と指摘しました。
現時点での世界最古の捕食動物は、約5億6000万年前に存在した「オーロラルミナ・アッテンボロキ」というイソギンチャクの仲間とされています。
プロトステロール・バイオタがいつ絶滅したのかは不明瞭ですが、研究チームは「おそらく10億〜8億年前までは存在した」と考えています。
というのもこの時期は、真菌類や藻類のようなより複雑な真核生物が進化し繁栄し始めた頃です。
ネッターシャイム氏は「この時代は地球史の中でも生態系が大きく転換した重要な時期の一つであり、プロトステロール・バイオタは、恐竜が絶滅して哺乳類たちに進化のスペースを空けたように、新世代の真核生物たちに道を譲ったのでしょう」と話しています。
もしかしたらプロトステロール・バイオタたちは、藻類の出現による海中の酸素濃度の変化など、新たな生態系についていけなかったのかもしれません。
AIに作成させた「プロトステロール・バイオタ」のその他の画像は、こちらからご覧いただけます。