「巨大なマグマ溜り」で放射性物質が濃縮されていた
なぜコンプトン・ベルコビッチで異常な発熱が起きているのか?
答えを得るために研究者たちは観測データの分析を進めました。
すると熱は融けた溶岩ののものではなく、岩石中に含まれる放射性元素の崩壊によって発せられていることが明らかになりました。
不安定な放射線物質は時間経過とともに放射線を発しながら崩壊してより安定な原子核構造に変化することが知られています。
このとき放出される高エネルギーの放射線が周囲の物質に吸収されると熱に変化します。
原子炉が停止した後も冷却し続けなければならない理由も、放射線を吸収した物質が極めて高温になるからであり、冷やさないとその熱で原子炉がダメージを受けてしまうからです。
また放射線物質を多量に含むという事実から、地下の発熱体が巨大な花崗岩によって構成されていることがわかりました。
花崗岩は火山の下にあるマグマが噴火しないまま冷えて固まることで形成されます。
たとえば現在のアメリカにあるイエローストーン国立公園の地下には巨大なマグマ溜りが存在することがわかっており、特徴的な景観や地熱に由来する間欠泉などが数多く存在しています。
また巨大なマグマ溜りは表面に見えている火山よりも遥かに大きく、複数の火山にマグマを供給する供給源としても機能することもあります。
コンプトン・ベルコビッチの表面には複数の噴火口がありますが、全ての噴火口は単一のマグマ溜りを供給源としていたと考えられます。
巨大なマグマ溜りは溜まりきると地表向けて破局的な噴火を起こすこともあり、たびたび気候変動の原因となってきました。
一方で、噴火せずに徐々に冷えて、巨大なマグマ溜りから巨大な花崗岩の塊へと変化する場合もあることが知られています。
このとき、溜まっているマグマで繰り返しの冷却と融解が起こると、マグマの中にあるトリウムやウラン、その他の放射性元素が次第に濃縮され、花崗岩内部に高濃度の放射性物質が蓄積されことがあるのです。
なかでもトリウムの半減期は140億年と長く、高濃度のトリウムを含む花崗岩は何十億年という長期間にわたり、熱を発し続けることになります。
そのため研究者たちは、コンプトン・ベルコビッチの地下にある花崗岩も巨大なマグマ溜りが放射性物質を蓄積しながら冷えて固まったものであると結論しました。
ただコンプトン・ベルコビッチの地下にある発熱体が巨大な花崗岩の塊であるとするなら、別の厄介な問題が発生します。
巨大な花崗岩が形成されるには水をはじめ「地球」に似た環境が必要となるからです。
35億年前の月に水があったのでしょうか?