感染しても無症状な理由は遺伝子に潜んでいる
今から3年以上前に発生した新型コロナウイルスは全世界により累計6億7657万人の感染者を生み出し、死者は688万人にも達しました(2023年3月時点)。
しかし奇妙なことに新型コロナウイルスの重症度には明らかなムラがあることが判明しており、20%の人々は感染しているにもかかわらず全くの無症状のままでした。
この不思議な現象はこれまで多くの人々の関心を引き付け、BCGの摂取履歴や民族の違いなど、さまざまな説が提示されました。
しかし現在に至るまで決定的な要因は明らかになっていませんでした。
そこで今回カリフォルニア大学の研究者たちは基本に立ち返り、症状が出てしまった人と無症状だった人々の免疫遺伝子(ヒト白血球抗原:HLA)の違いを調べることにしました。
免疫遺伝子の1つである「HLA遺伝子」は何千ものバリエーションがあることが知られており、バリエーションによって免疫システムがどのウイルスとの闘いが得意であるか、また苦手であるかが決まります。
たとえば特定のHLA遺伝子タイプを持つ人々はエイズウイルス(HIV)と戦う力が強く、感染してもほとんど症状が現れなくなっています。
しかし別のHLA遺伝子タイプを持つ人々はエイズウイルス(HIV)と戦う力が弱く、感染すると急速に症状が発症することが知られています。
このように免疫遺伝子に多くのバリエーションがあるのは、未知の致死的な病原体が人類集団でパンデミックを起こした場合、一部だけでも生き残らせるためです。
人類全員がエイズウイルスと戦う力が強いタイプのHLA遺伝子を持っていれば、確かにエイズの脅威を減少させられますが、そのタイプのHLA遺伝子を素通りしてしまう別の致死的病原体が出現した場合、人類はあっけなく滅んでしまう可能性があります。
HLA遺伝子のバリエーションが多ければ、未知の病原体に対抗できる人々が一定確率存在し、種を存続させることができます。