『星月夜』(ゴッホ画・1889年)
『星月夜』(ゴッホ画・1889年) / Credit: canva
psychology

生まれつき色覚異常があっても「絵画の色彩印象」は普通の人と変わらない!

2023.09.29 Friday

私たちの目はふつう、赤・青・緑の三原色の組み合わせで豊かな色彩を知覚しています。

この正常な色の見え方を「3色覚」と呼びます。

しかし中には、生まれつき色覚に異常があり、赤・青・緑のどれかが識別できなくなっている「2色覚」の方もいます。

2色覚の見え方は模擬画像などで体験できますが、実際に彼らが色彩から受けている印象が3色覚の人々とどう違うのかはよく分かっていませんでした。

そこで九州大学の研究チームは、色覚の働きが重要になる「絵画の鑑賞」をテーマに実験。

その結果、遺伝的な色覚異常は絵画の色彩印象に大きな影響を与えず、2色覚の人々も豊かな色彩体験をしていることが明らかになりました。

研究の詳細は、2023年9月13日付けで科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。

色覚の違いが絵画の見方や印象に与える影響の実証 https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/973 色覚の異常(三和化学研究所) https://www.skk-net.com/health/me/c01_13.html
Influence of colour vision on attention to, and impression of, complex aesthetic images https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2023.1332

2色覚で世界はどう見えるのか?

私たちが見るはすべて、の三原色である「赤・青・緑」の光の組み合わせで作られます。

色を感じ取る目の視細胞にも、光の波長感度に応じて、L錐体(赤)・S錐体(青)・M錐体(緑)の3種類があります。

3つすべてを備えているのが「3色覚」です。大部分の人はこの3色覚を持って生まれます。

しかし3種類の細胞のどれかが遺伝的に足りないか、十分に機能しないために色覚異常を起こす場合があります。

これが「2色覚」です。

2色覚はかつて色が正常に知覚できないことから”色盲”などと呼ばれましたが、この言葉により「色盲の人はすべてが白黒にしか見えない」という誤解が広まりました。

これは大きな間違いで、実際は区別のつきにくい色があるだけで、2色覚でもさまざまな色が知覚されています。

そのため、日本眼科学会は正式に「色盲」や「色弱」という用語の使用を廃止しました。

2色覚で体験される日常的な問題とは?
2色覚で体験される日常的な問題とは? / Credit: canva

また、2色覚は赤・青・緑のどれが識別できないかで次の3タイプに分けられます。

・赤を感じる視細胞がない「1型2色覚」

・緑を感じる視細胞がない「2型2色覚」

・青を感じる視細胞がない「3型2色覚」

1型2色覚は先天性色覚異常の約25%を占め、赤色が黒っぽく見えます。

2型2色覚は全体の約75%と最も多く、赤色に加えて緑色のものも黒や茶色っぽく見えます。

3型2色覚はほぼいませんが、青色が青緑っぽく、黄色がピンク色に、緑色が灰色っぽく見えたりします。

2色覚の人々が日常的に体験している具体例としては、

・熟れた赤いトマトと未熟な緑のトマトが区別できない

・信号の赤と黄色が分かりづらい

充電完了ランプの色の変化が見えづらい

カレンダーの祝日が色分けが識別できない

・緑の黒板に書かれた赤い文字が読めない

などがあるようです。

2色覚の見え方は、こちらのTOYO INKのページから疑似体験できます。

このように色覚異常についてはかなり詳細に分析されているので、3色覚の人でも2色覚の見え方を体験することは可能ですが、一方で、色覚の違いにより、日常的な色空間への視線の向け方や、そこから受ける主観的な色彩印象に変化があるのかは調べられていませんでした。

そこで研究チームは「絵画の鑑賞」をテーマに実験を行いました。

次ページ2色覚でも3色覚でも「色彩印象」に大きな違いはなかった

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